「暗号通貨の冬」にこそチャンスがある
暗号通貨市場は現在、暴落のさなかにあるが、シウはむしろ今がチャンスだと考えている。なぜなら、アニモカ社がこの分野への投資を本格化させた2018年も、現在と同様な「暗号通貨の冬」の真っ只中だったからだ。その年の7月、シウは香港で開催されたブロックチェーンのカンファレンスNifty Conferenceに登壇した。250人程度の小規模なイベントだったが、その会場で米国のOpenSeaやベトナムを拠点とするスカイメイビスなど、世界のWeb3の起業家とネットワークを築いたことが後の事業拡大につながった。
「暗号通貨の価格が下落しているときこそ、同じ志を持つ仲間とつながって有意義な投資が行える。それは前回の冬も、今の冬も同じだ」
ただし、今回の冬と2018年の冬の間には大きな違いがある。
「あの当時の暗号通貨市場の参加者の90%以上は、コインの値上がりを期待する人々で、彼らの関心はただ、安い時に買って高くなったら売って儲けようという投機的なものだった。しかし、現在の暗号通貨分野にはNFTやそれを基盤とするゲーム、DeFi(分散型金融)、DAO(分散型自律組織)のようなユースケースが広がっている。それに伴い、金融業界やテック業界の内外から優秀な人材が押し寄せている」
アニモカ・ブランズのチーム。Image Credit: Animoca Brands
暗号通貨市場が新たな暴落に襲われる中、6月20日から4日間ニューヨークで開催されたNFTのカンファレンス「NFT.NYC2022」には世界から1万5000人以上が集まり、自らをビリーバー(Believer)と呼ぶWeb3の信奉者たちがNFTやブロックチェーン技術の未来を語り合った。
ザ・サンドボックスは、そこで2日間にわたりクラブイベントを開催し、スティーブ・アオキやTiesto(ティエスト)といったEDM界の世界的DJがオーディエンスを熱狂させた。
元ユニクロの若手幹部
現在の社員数が700人を超えるアニモカ社は、業界の内外からトップクラスの人材を引き寄せている。その一例と言えるのが、当日のイベントで出会った同社のパートナーシップ部門の取締役を務めるセフ・チョウ(Zaf Chow)だ。かつて日本のユニクロのイノベーション部門に所属した彼女は、2011年に香港大学を卒業後、ファーストリテイリングが世界中からグローバルリーダーを選出するプログラムに応募し、会長の柳井正がじきじきに話を聞く面接を突破して、社会人としてのキャリアをスタートさせた。
2カ月の語学研修を経て、新宿高島屋店に配属されたチョウは、ユニクロの「経営理念23カ条」を丸暗記して日本語のフレーズを頭に叩き込んだ。その半年後には京都店のマネージャーを任された彼女は、3年目で東京の本社に戻り、バーチャル試着システムなどのデジタル戦略に関わりつつ、香港やバンコクの旗艦店で現地スタッフのトレーニングを担当した。
左からアニモカ・ブランズでデジタル戦略・パートナーシップを統括するセフ・チョウ、米国を拠点とするギタリストのMIYAVI、The Sandbox共同創設者のセバスチャン・ボルジェ、コインチェックでNFTマーケットプレイスを手がける天羽健介
その後、2016年に香港でフィンテック関連のスタートアップQUICKERを共同創業した彼女は、アリババの決済会社アリペイに勤務した後、2021年7月にアニモカ社に入社した。
「この会社は、単なるゲーム企業や投資会社ではなくNFTなどのイノベーションを通じて、Web3の最先端を切り拓いていく企業だ」と語るチョウは、ファッションや音楽など様々なジャンルの企業と提携を結び彼らのファンベースの拡大を支援している。
「アニメや漫画などのジャンルで世界的なコンテンツを送り出した日本には、まだ知られていない才能が眠っているはずだ。彼らのグローバル拡大を支援していきたい」
アニモカ社は昨年10月に日本法人を設立し、今年2月には講談社や西日本鉄道、三井住友信託銀行などが参加したファンドから11億円を調達したことを明らかにした。ブルームバーグは、アニモカ社が日本で出版や金融、自動車、教育、ゲームなどのIP(知的財産)のNFT化やマーケティング戦略に取り組み、世界で直接ファンを獲得できる仕組みを構築していくと報じた。