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2022.07.28 08:00

「暗号通貨の冬」こそチャンス、香港のWeb3企業アニモカの反骨精神


巨大テック企業に対する怒り


6月14日に東京で開催されたデジタルガレージ主催のカンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022」には、世界からこの分野のキーパーソンが集結し、Web3やメタバースの未来を語り合った。その日のキーノートでシウは、メタ(旧フェイスブック)のVRヘッドセットの写真を観客に見せつつ、「本当のメタバースはこれではない」と語った。

「Web3の世界で本当に重要なのは、個々のユーザーが自分のデータの所有権を持つことだ。現代のネットユーザーは巨大企業のためにタダ働きをさせられている」


6月14日のカンファレンスではデジタルガレージ共同創業者の伊藤穰一(左)とヤット・シウ(右)をはじめとする業界のキーパーソンらが、Web3が実現する社会とテクノロジーについて語り合った

ユーザーが情報を受け取るだけだった初期のウェブのWeb1は、ソーシャルメディアを中心としたWeb2に進化し、そこでやり取りされるビッグデータが、GAFAと呼ばれる巨大テック企業の成長を後押しした。しかし、そのデータの所有権はユーザーのものではない。

「アップルのクルマに乗って何かをしようとすると、彼らの許可が必要になるかもしれない。もしかしたら、30%の手数料を取られるかもしれない」

そう語るシウが、ブロックチェーンを基盤とするWeb3の世界にのめり込んだ根本には、巨大テック企業に対する怒りがある。

2009年にIBMへの事業売却を成功させたシウが、次の機会を見出したのが、アップルのAppStoreを通じたコンテンツ配信だ。その頃、幼い子を持つ父親だったシウは、まず児童用の単語帳アプリを無料で公開して、瞬く間に数百万ダウンロードを達成。2011年にインテルから資金調達を行ないゲームのアプリ事業を本格化させると、瞬く間にランキングの上位を独占するようになる。

しかし、2012年のある日、アップルは突然、アニモカ社のアプリをすべて削除した。その理由をアップルは公式に明かさないが、シウは毎週、新作を公開して何百ものアプリをストアに並べるという戦略がスパム行為と判断されたのではないかと考えている。

「どんな理由があったにせよ、何の予告もなくアプリを削除するという彼らのやり方は横暴だし、筋が通らないと思った。アップルはその当時160人の私の会社の社員の雇用を脅かし、何百万人ものユーザーの楽しみを奪った」と話すシウはその時、中央集権的なプラットフォームの問題点を身をもって実感した。

「私たちは自分のデータを所有するべきで、ゲームの中で生み出したデジタル資産を所有すべきだ。データは私たち自身が生み出す最も希少な資源であり、それを個人が所有することは、多くの世界的な不公平に対する答えにもなり得ると思う」

そんな彼の思いを具現化したのが、2018年にアニモカ社が買収したザ・サンドボックスだ。このゲームのユーザーは仮想空間の土地を所有し、ブロックチェーンにその記録を残し、ゲーム内のアイテムをNFTにして収益化できる。SANDと呼ばれるゲーム内通貨もあり、CoinMarketCapによると、その時価総額は現在約17億ドルだ。

アニモカ社はまた、Web3分野で盛んな投資を行ない、世界最大のNFTマーケットプレイスのOpenSeaや、全米プロバスケットボールリーグ(NBA)のNFTゲーム「NBA Top Shot」を運営するダッパーラボ、大ヒット中のPlay to Earn(プレイして稼ぐ)型のNFTゲーム「アクシー・インフィニティ」のメーカーで評価額が30億ドルとされるスカイメイビスなど世界の200以上のプロジェクトの出資元として知られている。
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文=上田裕資

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