今回お話を伺ったのは、サステナブル・ラボの平瀬錬司(ひらせれんじ)。
同社は、国内最大級のSDGs/ESGのデータベースを開発する企業だ。女性従業員の比率、CO2の排出量、リサイクル率といった企業活動の非財務領域データを集め、SaaSで提供する事業を展開している。2022年7月現在、導入企業数は金融機関20社以上、事業会社は50社以上に上る。製造業だけでなく非製造業からの引き合いも増えている。
7月16日には、岸田文雄首相が「大企業の非財務情報可視化を2023年度から義務付ける」と表明するなど、注目の領域だ。
代表取締役を務める平瀬は過去に、環境、農業、福祉などサステナビリティ領域のベンチャービジネスで複数回起業しており、バイアウト(有償譲渡)、無償譲渡、事業撤退などを経験している。そこで得たノウハウを結集し創業したのが、サステナブル・ラボである。
幾度となく新規事業を立ち上げてきた、正真正銘の“起業家精神”を持った平瀬からは今回、スタートアップでよく耳にする体験談が語られた。一つは、「経営者としてのマインド」、もう一つは「組織運営」。多くの企業がぶつかる課題を、どのように乗り越えてきたのか。
あるある1:経営者がすべて一人でこなしてしまう
サステナブル・ラボは、2018年10月に創業した(法人設立は2019年1月)。ちょうどその頃、日本国内では「サステナブル」というワードに注目が集まり事業としてはこれ以上ない追い風が吹いていた。平瀬は当時を振り返ってこう語る。
「これまで日の当たらないところで地道に事業を進めていた社会起業家が、いきなりスポットライトの当たる場所に来てしまったという感覚。想定していた10倍、100倍の勢いで世の中に必要とされていると感じました」
事業やプロダクトの急成長が求められるタイミングだったが、平瀬には一つの課題があった。事業創造における各領域のオーナーシップを手放す勇気、つまり権限委譲に踏み出せなかったのだ。
「もともと、個人商店のような会社でした。器用貧乏なタイプなので、ある程度私一人でできてしまっていた、あるいはできていると勘違いをしていたんです」
器用な経営者ほど、組織拡大時に直面する問題だ。自分一人で何でもできてしまうからこそ、イニシアチブを握り続けたくなる。その方がスムーズで、スピーディだと体感しているからだ。しかし、それではいつまで経っても企業として成長できない。この課題をどう乗り越えたのか?