私たちはこの2年半、すでに感染した人、ワクチン接種を受けた人、さらに追加接種を受けた人が、新たに出現した変異株に感染、あるいは再感染し、流行の波が繰り返し押し寄せる状況を目の当たりにしてきた。
この不幸なダイナミクスの背景にあるのが、ウイルスの構造、特に表面にあるスパイクタンパク質の変化だ。スパイクタンパク質は、ヒトの細胞の表面に結合し、侵入することにおいて重要な役割を果たしている。
この構造を認識する抗体は、感染を阻止することができる。だが、ウイルスの表面の構造が変化すれば、すでに感染した人の回復期血清に含まれる抗体やモノクローナル抗体は、細胞と結合したり、ウイルスを中和したりする力を失う。
既存のモノクローナル抗体について、変異株「オミクロン株」の派生型で、2021年後半に出現し、瞬く間に世界中に広がった「BA.2」、現時点で最も優勢になっている「BA.5(とBA.4)」、「BA.2」系統の亜系統で、これまでに特定されたどの変異株よりも感染力と免疫を回避する力が強くなったとされる「BA.2.75」に対する有効性を調べた研究結果が、先ごろ発表された。
その結果にも示されているのは、ウイルスがすでに感染した人、ワクチン接種を受けた人が持つ自然免疫を回避する力は、そのウイルスが特定のモノクローナル抗体を回避する力にも反映されているということだ。
過去の研究でも明らにされているとおり、後から出現したオミクロン株は、初期の変異株よりはるかに効率的に、複数(承認されているすべて)のモノクローナル抗体を回避する力を強めている。そして、「BA.2.75」は向こう数週間のうちに、新たに優勢な株になると予想されている。
だが、後から現れる変異株がモノクローナル抗体に抵抗性を示すことは、驚くことではない。