中野:雪国観光圏では、12の宿がゆるやかにつながり、同じ価値観を英語で発信していることも興味深く見ています。
井口:ryugonと同じような方向性をもつ12軒をセレクトして、「エコロッジ」として展開しています。海外では、地域の暮らしを意識したサステナブルで高価格な宿泊施設がエコロッジとして人気を博しています。雇用も含め、地域の持続可能性に貢献しています。そのような概念を取り入れて、エコロッジ・ジャパン・イン・雪国として「群」で展開しているのです。小規模で上質な12の施設がグループになってエコロッジとして海外に問うているところです。
フジノ:雪国のエコロッジの要件39項目を設定し、調査をして情報を共有、公開しています。こうした情報の透明性は、海外の市場に受け止められやすいと手ごたえを感じています。
雪国の「重荷」をプラスの価値に逆転させる
中野:たまに来る観光客はスキーやスノボが楽しいということはありますが、暮らす人にとって、雪は重荷でもありますよね。
井口:たしかに雪国のマイナスイメージは根強いのですが、雪って実は恵みなんじゃないかという価値の転換を目指しています。たとえば、外国からの観光客が雪下ろしの写真をワンダフルといって撮っていく。地元の人が重荷と感じていたことも実は他の文化圏の人から見るとすばらしいのだと気づかせてあげること、これも観光にできる社会貢献です。
フジノ:オープンになっている渡り廊下も、実は当初、壁があったのです。壁がなかったら解放感があるなと思って取り払いました。雪かきがたいへんですが、それもまたエクスペリエンスではないかという逆転の発想です。大胆な決断でしたが、面白がってやっています。
ryugon 渡り廊下
井口:家の前を通る誰かのために、各家の前を雪かきする習慣がありますね。あれもある意味、「贈与」なのではないか、と意味を与えてみたり。
中野:そんな雪国ならではのライフスタイルや考え方を、価値として意味を与え、地元民自身も自信をもてるよう発信していらっしゃるわけですね。
井口:私たちが標榜するコンセプトは、「100年後も雪国であるために」です。8000年前から雪と共生してきた中で、雪という自然を活用し、克服しながら育んできた文化を愛で、それを可視化して次世代に残したいのです。雪国の文化や暮らし、歴史。仮に温暖化で雪が降らなくなったとしても、雪国としてのDNAは残したい。ryugonはそれを伝えるミッションを負っています。
インタビューは以上です。井口さん、フジノさんの思いが載った言葉は力強いものでした。これからのインバウンドに求められるブランド力を育てるヒントも見つけられるのではと思うのですが、安西さんのご意見はいかがでしょうか? インバウンドを新しいラグジュアリーの観点から見た時、現在の議論の盲点になっていることがあればご指摘ください。