経済・社会

2022.07.19 12:30

韓国スパイの嘆き ただ、「ご苦労さん」とだけ言われたい


今の国家情報院には、「恐怖のナムサン(当時の本部がソウル市の南山にあったためにつけられた別称)」と呼ばれ、絶大な政治権力を握っていた中央情報部(KCIA)や国家安全企画部時代の力はない。最近の職員たちは、権力を握ることよりも、「情報のプロ」として、入手困難な情報を手に入れたり、誰も気づかないような分析をしたりする仕事にあこがれて、国情院に入ってくるという。

ただ、公務員だから、時の政権の方針には従わざるを得ず、それで悲哀も味わってきた。ジョージ・W・ブッシュ政権当時の2008年、韓国では進歩系の盧武鉉政権に代わって保守系の李明博政権が誕生した。李政権当時の政府高官によれば、米国は喜び、「これからは、様々な情報を共有できる」と伝えたという。国情院の元幹部の1人は「政策が変わると、他国との情報交換に問題が出る。そもそも、北朝鮮からも信用されなくなる」と話す。

国情院関係者は名誉を求めてはならないとされている。複数の偽名を使い、「どの名前をどう使ったのか、わからなくなった」と苦笑いした人もいた。また、「我々の仕事は、合法か違法かでは判断しない。国家の利益になるかどうかだ」と語った人もいた。違法行為にも手を染めるが、逆に言えば、自らも危険を背負うことになる。ロシアや中国で、北朝鮮工作員によって殺されたり、拉致されたりした国情院関係者もいるという。

そんな苦労した末、政治的な責任まで追及されたら、どうすれば良いのか。元幹部の1人は「私たちは、政権が代わっても、スゴヘッタ(ご苦労さん)と言ってもらいたいだけだ」と話す。

国情院がこんな事態に至ったのも、米国のCIA(中央情報局)とFBI(連邦捜査局)のように、海外パートと国内パートを分けなかったツケとも言える。ただですら、国情院は国内部門を廃止するなど、機能を大幅に低下させている。北朝鮮と対峙する分断国家として、仕方がない選択だったとも言えるが、このままでは韓国の情報機関は崩壊してしまうかもしれない。

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文=牧野愛博

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