在庫切れの予測をすると同時に、AIはサプライヤーのリスクを予測する役割も果たすことができる。「過去12カ月で、サプライヤーと最良価格を交渉することは、この市場において最悪の戦略であることがわかりました」と、レイはいう。「前年比購入価格が減少するのにともない、供給の混乱が増えるパターンが見られるようになったのです。サプライヤーは十分な在庫を供給することができないので、マージンが最も低い顧客、あるいはマージンがマイナスの顧客は、結局サービスを受けることができません」
PwCの調査では、サプライヤーのリスクに対する経営者の懸念が高まっていて、27%がサプライヤーから原材料を確保できないことを主要なリスクと考えており、次いで24%がサプライヤーのオペレーションの問題を懸念し、21%がサプライヤーの財務状況を懸念していることが明らかになった。
回答者の58%にあたる多くの企業では、サプライチェーンの従業員の離職率が通常よりも高くなっており、将来の目標を達成するために必要なデジタルスキルを有していると完全に表明しているのはわずか23%であることも、PwCの調査から判明している。
AIは、経営者がこうしたリスクをよりよく理解するのに役立つと、レイは見ている。「人手不足がサプライチェーンの大きな問題になっているため、誰がなぜ辞めるのかを把握するためにAIを活用する企業が増えています」
AIは、人々がその取り組みに賛同しているときにのみ、その成果を発揮することができる。マッキンゼーの報告書の著者は「AIは、これまでよりもはるかに高い頻度と粒度で、チームに深い洞察を提供できるようになります」と述べている。「しかし、こうした可視化だけでは、AIを用いたサプライチェーンソリューションからさらに多くの価値を獲得することはできないでしょう。大規模なテクノロジーへの投資は、組織改革、ビジネスプロセスの改革、スキルアップの努力に見合ったものでなければなりません。そうすることで初めて、企業は期待されるROIを獲得することができるのです」
「また、AIには高速性、柔軟性、適応性が求められますが、これまでのAIは一般的にはそうではありませんでした。AIプロジェクトは、動きの遅い恐竜のような存在から脱却しなければなりません」とレイは訴える。「この10年は、力強く途切れることのない経済成長を続けてきました。こうした経験を持つ多くの若手社員は、毎年、前年より良くなっていくはずだと期待しています。そうした世界では、9ヶ月から18ヶ月かかるAIプロジェクトでも構わないのです。未来は過去とつながっていて、より良いものになって行くのですから。しかし、この3年間で、来年はおろか、来月さえも世界は同じではないということがわかりました。AIプロジェクトはアジャイル(機敏)でなければなりません。エンド・ツー・エンドのプロジェクトに、30日以上かけることはできません。すぐに実行可能な情報を必要としている多くの企業は、サイクルを2〜3週間とさらに短縮しています。18ヶ月前の環境を想定して開発されたモデルを導入することを想像できるでしょうか?」