2つ目の物事を能動的に進めることは、社会的地位が高くなると知らずのうちに受動的な思考になってしまうことに対する打ち手です。組織内で地位が上がると、部下に仕事を任せる機会がどうしても増え、報告を聞きその報告内容に応じて対応策を指示するという受動的な思考が増えてきます。評論家のコリン・ウィルソンは、『至高体験―自己実現のための心理学』の中で、受動的な態度と精神疾患との相関関係を述べ、受動性は心の充足度を下げることを言及しています。部下からの報告を待ちジャッジを下すことの時間が増えると、やがて現場の最前線に立っていたときにはみなぎっていたはずの気概が衰え、心を病む原因にもなります。
裁量権を駆使すれば、気が進まない会議や重要な顧客交渉は部下に任せることもできるでしょう。しかし、あえてそれをせず、きつい仕事や熱量を必要とする仕事ほど能動的に取り組むことの重要性は、これまでの研究が示唆しています。
骨が折れますし気が重いはずです。それでも自分から主体的にかかわることを選び、エネルギーを惜しみなく注ぐ覚悟を決めれば、組織への貢献感とともに自己肯定感が高まるはずです。
管理職だからと言って、自らが熱量を持って取り組める仕事を手放す必要はありません。部下に背中を見せ奮い立たせるのもマネージャーの仕事であるなら、他者に判断を預けず、自分自身を奮い立たせるのもあなたの仕事なのです。
2021年9月から続いた連載は本稿 #12をもって終了となります。
【連載】今までにないアプローチでデジタルを理解する
#1:戦争論もドラッカーも古くない。デジタル時代こそ古典ビジネス論へ#2:何かご一緒できたら──は無用。日本企業はスタートアップを正しく評価せよ
#3:ビジネスプラットフォームに活路? ならば肝に銘じる4つのポイント
#4:グローバルジャイアントが日本に生まれない、宗教の行動様式という新視点
#5:アワセとソロイ? 日本人の精神性が、ビジネスで弱点ではない理由
#6:日本が世界に勝つ「独自性の市場」は、スピードでもスケールでもない
#7:中堅幹部は石田三成に学べ。現代に通じる日本的リーダーシップ論
#8:コンサルタントが実践する、成果につながるビジネススキルの磨き方
#9:議事録のレベルでスキルがばれる。ビジコミュに必須の3つのアプローチ
#10:アスリートが発揮するキャプテンシーが、ビジネスと共通する理由
#11:障がい者雇用から学ぶ、多様性をいかす組織の作り方
#12:本記事
中村健太郎◎アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 通信・メディア・ハイテク アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区統括 兼 航空飛行・防衛産業 日本統括 マネジング・ディレクター。フューチャーアーキテクト、ローランド・ベルガー、そしてボストンコンサルティンググループを経て、2016年にアクセンチュアへ参画。全社成長戦略、新規事業創造、デジタル、組織・人材戦略、M&A戦略、等の領域において、幅広い業界のコンサルティングに従事。