本家の「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督は、このリメイク版について次のように語っている。
「驚いたのは、自分たちが『やれなかった』ことを『やっていた』ことです。『カメ止め』にはワンカットで撮りたかったけれど、時間や予算の都合で叶わなかった、とある場面がありました。リメイクではその場面がワンカットで撮られていたのです。オリジナルから感じ取ってくれたのか……、まるで映画を通じてつくり手同士がコミュニケーションを交わしたような、そんな感覚になりました」
このように仏版の「キャメラを止めるな!」は、例え日本版を観ていたとしても、十分に楽しめるものとなっている。夏と言えば、幽霊や妖怪で涼気を誘うというのが日本流の定番だが、このフランス製のゾンビ映画は、笑いと驚きで暑気を吹き飛ばしてくれる。
仏映画界の才人が描く視覚的ギャグ
もうひとつフランスから、真夏の猛暑も忘れさせる抱腹絶倒のコメディ作品が登場している。その名も「バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー」。タイトルをよく見てもらうとわかるが、「バットマン」ではなく「バッ”ド”マン」だ。つまりこれはアメリカンヒーローを題材にしたパロディ作品なのだ。
(C)CINÉFRANCE STUDIOS - BAF PROD - STUDIOCANAL - TF1 STUDIO - TF1 FILMS PRODUCTION(C)STUDIOCANAL(C)Julien Panie
父親の反対を押し切り、俳優として活躍する夢を追い続けている主人公。その心が折れかけていたときに、新作映画「バッドマン」の主役に抜擢される。彼は身体を鍛え上げて、格闘術を学び、撮影に臨むが、父親が倒れたという知らせを聞いて、バッドマンのコスチュームのままバッドモービルに乗って病院へ急ぐ。
しかし、その途中、事故に遭い、彼は過去の記憶を失ってしまう。自分は誰なのか、なぜバッドマンの格好をしているのか、そこから映画の撮影現場だけではなく、周囲の人たちをも巻き込んだ右往左往のコメディが繰り広げられる。
主人公のセドリックに扮するのは、この作品の監督も務めるフィリップ・ラショー。彼はフランス映画界をリードする才人で、主演から監督や脚本まで見事にこなし、これまで数々のコメディ作品を送り出してきた。
日本でもコアなファンを獲得している「真夜中のパリでヒャッハー!」(2014年)や「世界の果てまでヒャッハー!」(2015年)は、前出の「カメラを止めるな!」に似たシチュエーションも有しており、少々ブラックな笑いとともに痛快な伏線回収が作品の魅力の1つともなっている。
2019年には日本のコミックを原作とした「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」を発表しており、アクションコメディという新境地にも挑戦している。
今回の「バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー」では、「バットマン」だけでなく、ハリウッドのマーベルやDCなどのコミックヒーローたちをパロディ化した場面も多数登場しており、元の作品を想い浮かべながら観賞するのもなかなか楽しい。
『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』7月15日(金)より、全国ロードショー /(C)CINÉFRANCE STUDIOS - BAF PROD - STUDIOCANAL - TF1 STUDIO - TF1 FILMS PRODUCTION (C)STUDIOCANAL (C)ulien Panie
また、ラショー監督は、視覚的効果を活かしたギャグが得意であり、誰が観ても笑えるコメディ作品が多い。この作品でも、主人公が落下するシーンで、突然、打ちつけられる床が3D画像をプリントした防水シートに替わるなど、視覚で楽しませる笑いが多数用意されている。
ちなみに彼の過去作は、動画配信サービスでもたっぷり観ることができるので、この夏の長い猛暑を笑いとともに乗り切るにはよいかもしれない。