これに対し日本は、山岳系の地形に広がる原始林を開拓しては進むスタイルだ。馬も小型な農耕馬で移動となると、湾曲して腰に差し、薮でも抜きやすい刀、細身軽量、切れ味抜群の細い刀が良かったと言える。
それよりも、日本刀が他の文化圏の刀と違うのはこの見た目ではなく、こだわりの製造にあるだろう。あの細い刀は、簡単に言えば2種類の鉄で作られている。背の部分にあたる柔らかな鉄と刃の部分の硬い鉄である。この二つが組み合わさって初めて、切れ味がよく折れにくい刃物ができるのである。
世界の戦闘用刀は一般的に1種類の鉄で作られていて、刀鍛冶が何度も打ち込んで2種類の鉄をあわせて作るのは日本刀だけと聞く。専門家によると、1種の鋼鉄だけで細身の日本刀を作ってチャンバラごっこをしたら、すぐ折れるそうだ。匠の技による刃物なのだ。
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切れ味抜群の刀鍛冶は1000年以上前の平安時代には産業となり、江戸時代まで続いた。日本全国で作られ、工房も数百あったと言われている。ところが、刀による戦争が終焉をむかえ、明治9年に廃刀令が出されると、刀鍛冶は日本全国で職を失ってしまう。コロナやAIで職を失うパラダイムシフトの10倍くらいの文明革命の影響だった。
刀鍛冶は包丁屋、ハサミ屋などにわかれ歴史を受け継いでいく。他にも馬具屋、アクセサリー屋などとなり、中でも1884年に創業した日本のジュエラーのパイオニア「ウエダジュエラー」は、刀作りの職人を引き継いで皇室御用達といわれる最高峰の宝石商となった。
メンテナンスして、使い込む
いま、美容室にいくと、数千円で散髪できるが、その過程では数種類のハサミが使われている。カットするだけではなく、ボリュームを減らしたり、刈り上げしたり、眉毛なども調整したり。基本のカットバサミは、刃物の伝統を受け継ぐ逸品で、美容師理容師の商売道具の中心であり、彼らのプライドだ。
価格は1本10万円近くする。彼らはそれを、メンテナンスしながら使い込んでいく。汚れ取るだけでなく、カットするたびに衛生上の殺菌もする。1時間のカット中に、1回髪の毛が引っ掛かるとお客様からは「最悪のサービス?」のような目つきで睨まれることもある。そうならないように、毎月専門の研ぎ屋に研ぎ直してもらうなど、丁寧にケアをしている。
大河ドラマ話からここまで回り道をしたが、美容のハサミは日本の歴史と伝統技術を受け継ぐ工芸品であると理解いただけたのではないだろうか。日本のヘアメイクが世界のトップシーンでも活躍する裏には、センスや技だけでなく、サポートしている道具技術へのこだわりも日本人らしいかもしれない。