技術だけではない 日本の美容を支える「道具」へのこだわり

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主役より、大泉洋の存在感が大きかった。今回のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では特に、彼自身が備える笑いのセンスと、それと表裏一体とも言える冷酷な側面を出した役作りが際立っていた。そんなドラマを見ていると、なぜか美容のハサミを思い出してしまう。

鎌倉幕府の中心、鶴岡八幡宮には、美容の原点アイテムの一つ、源頼朝の正室の北条政子が使用したハサミが残されている。後白河天皇から下賜された菊の御紋入りの「握り鋏」というハサミである。現在どこでも買えるX型のハサミではなく「和鋏」という、昭和世代ならなんとか想像のつく、U字型のバネのようなハサミである。

北条政子が美粧のために使った大切な道具だったようで、日本に現存する最古の美容ハサミであり、昔、美容に携わるものは見学に行っていた。


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ハサミの歴史はナイフの歴史とほぼ同じだろう。世界中で古くから存在している。ナイフを二つあわせたような形のハサミという道具は紀元前1500年頃からあり、各地の遺跡から似たようなものが出ているそうだ。

最初は、和鋏と同じU字型のハサミが、羊飼いが羊の毛を刈るのに使われていた。もちろん人類も髪の毛を切る習慣が古くからあったので、おそらくナイフだけではなく使いやすいハサミが文明の力として活用され、世界に広まったのだろう。いつか髪を切る習慣の話もしてみたい。

ハサミにつながる日本刀の歴史


鎌倉幕府の以前のハサミの話を少し。ハサミはその材料が鉄であることから、その歴史は鉄の歴史でもある。いまのトルコに位置するヒッタイトは鉄文明の世界特許の国だった。その文化は、ヒッタイトの没落とともに中国を経て、日本に入ってきた。最初に大陸から輸入された刀は、中国のまっすぐな直刀だった。

その後、国内での鉄の精錬技術が磨かれ、武器や食器の刃物から始まり、日本独自の多様な刃物文化が広がっていく。特に日本刀のような細くて長い刃物は、最先端の技術の結晶であり、多くの国で見られるような短く太い刃物とは一線を画す武具を超えた工芸品となった。日本刀は弓反りともいえる湾曲した現代に伝わる刀の形に変化を遂げ、大陸の直刀とは違った武器になった。

大陸は戦争の舞台が平原であり、広い地域を馬で移動するライフスタイルであることから、槍や鉾が多く使われた。また大型の直刀でも振り回すには十分な空間が大陸にはあり、大きくても優雅に使えたのが羨ましい。
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文=朝吹大

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