新しいことをどうやって、多くの人に受け入れてもらうか。スティーブ・ジョブズはかつて、コンピュータについて「ひとりの人間の筋力を一日で山をも越えられる能力に変換できる自転車と同じはたらきを持つ」とたとえたそうだ(クリフ・クアン、ロバート・ファブリカント共著『「ユーザーフレンドリー」全史』尼丁千津子訳)。
各社がいま取り組んでいる電気自動車に関して、BMWは2つの方向性を同時にさぐっている。
ひとつは、既存のSUVの概念をくつがえすようなスタイルをもった「iX」。リムジンとSUVが合体したような、ぜいたくなコンセプトをもつ。一方、知らなければ電気自動車と気づかないのが「iX3」。ジョブズの「自転車」はこちらである。
iX3のベースは、2017年に日本に導入された第3 世代のX3。BMWがスポーツアクティビティビークルと呼ぶ、日本でも人気の高いSUVだ。特徴のひとつが、エンジン屋を自負するBMWが手がける、さまざまなパワープラントが用意されていること。ガソリン、ディーゼル、それにパワフルなMモデル(高性能版)まである。
自動車メーカーにとって、エンジンの多様性はブランド価値向上と密接な関係にあった。端的な例は、多気筒化。4気筒より6気筒、さらに8気筒、12気筒へと続く、いわばピラミッド。iX3の面白さは、”気筒数至上主義”をひっくり返すような、ありかたにある。
74kWhのバッテリーに、電気モーターの組み合わせ。210kWの最高出力に400Nmの最大トルク。スムーズな走りで電気自動車のポテンシャルの高さを感じさせてくれると同時に、クルマの本質的な魅力とはパワープラントに過度に依存せず、運転しての楽しさにあると再認識させてくれるのだ。気がつけばEVに乗っていた……ひょっとしたらこれが”未来”なのかもしれない。iX3がそう思わせてくれる。
BMW iX3 M Sport
ボディ外寸:全長×全幅×全高=4740×1890×1670mm
駆動形式:電気モーター
最高出力:210kW 最大トルク400Nm
一充電走行距離:508km(WLTCモード)
価格:¥8620000(車両本体価格)
問い合わせ:https://bmw.co.jp
COLUMN「i4」でさらに広がりを見せる、電気自動車の可能性
2030年までに世界販売の50%を電動車にするとしているBMW。日本市場においても、ラインナップにピュアEVが増えているのは注目に値する。
今月のメイン車種、iX3がX3の機能性をそのままに電動化したのと似ているのが、i4 eDrive40。2022年2月に日本発売開始されたこのモデルは、4シリーズグランクーペのスポーティかつエレガントな雰囲気をそのまま生かした、ピュアEVだ。
全長4785mmのクーペライクなスタイルと、83.9kWhの大容量バッテリーによる電気モーターの組み合わせにより、静止から時速100kmまでを5.7秒で加速してしまうのだから、BMWの本質的魅力はスポーティな走りにあると思っている人だったら、食指が動くのではないだろうか。この上にはさらに高性能のi4 M50が設定されているのだから、おどろく。EVの可能性への”挑戦”はいかにもBMWらしい。