ダウンラウンドは様々な意味で厄介です。既存株主にとって株の希薄化を意味するほか、あらゆる方面にマイナスの影響が広がる可能性があります。経営陣や社員、既存投資家の意欲やモチベーションが下がるかもしれません。潜在的な投資家や顧客、社員からの評判も悪化するかもしれません。そしてそれらの要因を上手くコントロールできなければ、悪循環となってさらに事態が悪化することも考えられます。
今のところ、私の周辺ではまだダウンラウンドは出てきていませんが、起業家や投資家との会話の中でダウンラウンドが話題に上ることは増えてきています。以前なら高いバリュエーションで調達したであろう企業も、最近では、次の資金調達までにそのバリュエーションに到達できなかった場合に備えて、ダウンラウンドを回避するプランについて検討するようになっています。
たった2、3年前と比べて、まるで異なる状況です。高すぎるバリュエーションで調達することのリスクについて以前記事で取り上げましたが、当時はツイッターで激しい議論が繰り広げられ、感情的に反発する声もありました。同じ記事を今日投稿したとしたら、おそらく特に大きな議論もなく受け入れられるでしょう。
これからは、どうすればダウンラウンドを避けられるかという点がスタートアップにとって重要になるでしょう。今回の記事ではその方法をいくつか取り上げたいと思います。まずは、日本ではあまり知られていない方法から紹介します。
「総合的に低いバリュエーション」を作り出す
リーマンショックの最中にあった2009年の5月、Facebookは100億ドルのバリュエーションでDSTから資金調達しました。それより2年前の150億ドルのバリュエーションと比べるとダウンラウンドでしたが、当時の市場環境を考慮するとそれでもあり得ないバリュエーションでした。しかし、あまり知られていないことですが、実はDSTとの契約にはさらに「65億ドルのバリュエーションで、Facebook社員が保有する1億ドル相当の普通株式をDSTが買い取る」という条件も含まれていたのです。 総合すると、DSTから見ればおよそ88億ドルのバリュエーションだったということです。一方で、Facebook側ではマクロ環境の悪化により上場計画が中止になったこともあり、社員の間ではなるべく早く持株を現金化したいという声も上がっていました。つまり、関係者全員にとってwin-winな条件だったのです。
このFacebookの事例からは、2つの重要な点が学べます。1つ目は、当時最も注目されていたスタートアップでさえも、市場センチメントの変化によるダウンラウンドは避けられず、そしてそれでもなお結果的に大成功を収められたという点です。2つ目は、既存株主から買い取った株式を組み合わせることで、新規投資家に向けて実質的により低いバリュエーションを作り出せるという点です。この方法を使えば、総合的に比較的低いバリュエーションを新規投資家にオファーすると同時に、フラットラウンドや場合によってはアップラウンド(前回を上回るバリュエーション)も実現できるかもしれません。