デザイナーになりたかったアニーを家に閉じ込めた結果離婚に至ったのは、互いの価値観の違いゆえ仕方のないことだった。ビリーが自分なりの言葉で改めてそれを確認し、アニーが穏やかに受け止める一連のシーンに、別れた夫婦の成熟も垣間見える。
この直後、気の変わった借金取りにTJの馬を奪われそうになってカッとしたビリーは、傷害事件を起こす。自らチャンプの名に泥を塗って捕らえられた父を、それでも「チャンプ」と呼び、「一緒にいたい」「何でも言うことを聞く」とダダをこねる息子にわざと邪険に対応する場面は、この映画の中でもっとも辛い。
ここでのビリーは、当分(あるいは永久に)父なしで過ごさねばならないTJの未練を断ち切らせようと、心を鬼にしてあえて嫌われそうな態度を作っている。それは彼なりの愛情の裏返しだが、幼いTJには通じない。
この何とも歯痒い「通じなさ」は、物語のラストで再度確認されることになる。
ビリー・フリン役を演じたジョン・ヴォイト(2014年)
いずれにせよ、「息子の信頼に応えたい」という父親としては立派な志が、弱い心ゆえに「息子をとにかく喜ばせたい」へとスライドし、「偽」のプレゼントによって事態は思惑とは逆方向に発展、自ら墓穴を掘ることとなった。
それだけに、一旦はアニーの元に預けられたものの実の母と知ったことでショックを受け拒否したTJが、やっと刑期を終えて出所したビリーを競馬場で迎える場面が、胸を打つ。
ビリーがどんなに裏切り的な行為をし、自分に厳しく当たっても、TJにとっては彼が唯一無二の父であり、帰る場所はそこしかないということが実に鮮明に表現されている。
しかしこれは、ビリーにとってこの上なく嬉しい反面、恐ろしいことでもあるのではないだろうか。この先、もう少しの堕楽も脇道も許されないのだ。ブランクを克服しリングに上がり戦って勝つ、この「本物」のプレゼントを息子に贈ることしか、彼に残された道はない。それは一旦地に落ちた、父としてのプライドを取り戻す戦いでもある。