「チャンプ」にふさわしい父になる 元ボクサーの最後のプライド|映画「チャンプ」

映画「チャンプ」より イラスト=大野左紀子


しかし実はこれは、ビリーの中では「偽」のプレゼントだ。「本物」のプレゼントは、自身が再びリングに立ち、息子の呼ぶ「チャンプ」の名にふさわしいチャンピオンとして賞金を獲得することだと、彼は知っている。それができないから、ギャンブルの泡銭でわかりやすい喜びと感謝を買っているのだ。

「偽」のプレゼントはやがて、2人の間に不安定要素を呼び込むことになる。満を持して馬はレースに出場するが、競馬場でTJは偶然にも母アニー(フェイ・ダナウェイ)と出会う。もちろん互いに親子とは知らないまま、小さな馬主に興味をもったアニーは、TJの小生意気にも可愛いアピールに乗って、その馬に10ドル賭ける。

TJの愛馬はトップでゴールインする直前で転倒。そこに走り寄る親子を見て、アニーはTJが自分の息子と知る。

デザイナーとして成功し再婚も果たした富裕層であるアニーと、うだつの上がらないビリーの対比が鮮やかだ。乳飲み子を抱えてのかつての苦労と恨みをぶつける元夫に、息子に会わせてとアニーは訴える。

10ドルの賭け金の約束を果たすという名目で、TJをアニーのところに行かせたビリーだが、男ひとり親としての自信がわずかに揺らぎ始めるのが、浜辺で遊ぶ余所の親子たちを眺める寂しそうな背中に見てとれる。

髪を七三分けにし正装させられてアニーのいる豪華クルーザーに招待されたTJが、懸命に一人前の紳士として振る舞おうとしている様子が本当に可愛い。この映画の半分は、TJを演じてゴールデングローブ賞新人男優賞を獲得したリッキー・シュローダーの“反則”と言いたくなるようなあどけなさと健気さを味わうためにある、と言ってもいいほどだ。

「優しいおばさん」アニーから抱え切れないほどのプレゼントを貰い、迎えに来た父親にはしゃいで説明する無邪気。そんな息子を見て、射的で獲ったぬいぐるみをそっと車の外に捨てるビリーの横顔がせつない。

不器用な父、息子への「通じなさ」


俺はこのままじゃアニーに負ける、父親としてもっとTJを喜ばせたい、やっぱりチャンプは凄いと思われたい……という焦りは、彼をまたギャンブルに向かわせる。それが良い結果を招くわけはなく、大負けした穴を埋めるためにアニーに借金を申込みに行くシーンで、彼のプライドは完全に地に堕ちている。

だがそのやぶれかぶれの状態が逆に、2人の間の緊張感をゆるめることにもつながっている。ファッションショーの司会をしていた元妻を「決まってたぜ」と言葉少なに褒める言葉には、ビリーの不器用さと照れが現れて好もしい。
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文・イラスト=大野 左紀子

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