まして親子関係が良好であれば、幼い子供はすべての希望と信頼を親に託すだろう。もしかしたら親が思っている以上に。
『チャンプ』(フランコ・ゼフィレッリ監督、1979)は、引退したボクサーである父と幼い息子の固い絆を描いたヒット作。かつてチャンピオンに輝いた父を敬愛する、息子から父への呼称がタイトルになっている。
これは、自堕落で不器用な父が、我が子の無垢な信頼に満ちた呼びかけ「チャンプ!」を再び“真実”のものにしようと奮闘し、最後に死に至る物語である。父への子どもの絶対的な信頼は、「それにふさわしい父にならねばならぬ」という強迫にも似た信念を父の中に生み出し、彼を死闘に駆り立てるほどの莫大な威力をもつのだ。
「泣ける映画」としてもランキング上位によく顔を出す作品についてこんなまとめ方をすると、「そんな身も蓋もない」と言われそうだが、ここでは「親子愛」と言われるものをこのような観点から切り取り、主人公である父親の心理に沿って見てゆきたい。
「偽」のプレゼントが呼び込む不安定要素
かつてはチャンピオン・ボクサーとして名を馳せたビリー・フリン(ジョン・ヴォイト)37歳は、息子TJ(リッキー・シュローダー)が赤ん坊の頃に妻が出ていってから没落し、今は厩務員として働く身。8歳のTJは父をよく手伝い、厩舎の人々に愛されている。
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息子のために何とかして再びリングに立ちたいと考えるビリーだが、7年のブランクは大きく、ジムに顔を出したものの緊張に耐えられず結局飲みに行ってしまうという弱い性分。そんな父を心配しながら見守るTJはいかにも健気で、傍目には危なっかしい2人は深い愛情に結ばれた親子だ。
このドラマでは、ビリーからTJに2回、大きなプレゼントが贈られる。その1回目は、ギャンブルで儲けた大金で購入した競馬馬。信じられないという表情にすぐさま歓喜が溢れ、初めて自分の馬に乗るTJと、息子を嬉しそうに見守るビリーの姿は微笑ましい。