研究の主執筆者である米ルイジアナ州立大学海洋学・沿岸科学科助教授のシェリル・ハリソンと共著者らは、今日の核戦争能力を織り込んで地域的および大規模な核戦争が地球全体に与える影響を調べるために複数のコンピューターシミュレーションを実行した。
研究者らは、米国とロシアが広島に投下されたものと同規模の100キロトンの核兵器4400個を使用して都市や工業地帯を爆撃する本格的な世界大戦で、地球のシステムに何が起こるかをシミュレートした。また、インドとパキスタンがアジア大陸で100キロトンの核兵器を約500発爆発させるような地域的な核戦争でもシミュレーションを行った。
どのシナリオでも、核爆発によって大気圏上層部にばい煙が放出されて太陽が遮られるため、世界中で農作物が不作になることが予想される。最初の1カ月で世界の平均気温は約13度下がり、最後の氷河期よりも大きな温度変化が起こる。
「誰が誰を爆撃するかは問題ではない。インドとパキスタンだろうが、北大西洋条約機構(NATO)とロシアだろうが関係ない。煙が大気圏に放出されると地球規模で拡散し、すべての人に影響を及ぼす」とハリソンは説明する。
核戦争が始まって最初の数時間で約1億人が爆風で死亡すると予想される。数週間後には気温が下がり、植物の成長期が短くなる。また気象パターンが変化し、世界の農作物の生産に悲惨な影響を与えることが予想される。推定で10〜20億人が飢餓に直面する可能性がある。
海水温は急速に低下し、煙が消えた後も核戦争前の状態に戻ることはない。地球が寒冷化すると海氷が拡大し北京、コペンハーゲン、サンクトペテルブルクなど北半球の主要港を塞ぐ。海氷は通常氷のない沿岸地域まで広がり、世界の船舶の航行を妨げ、一部の地域では食料や物資の調達が困難となる。