見ているのは15秒前のものだった? 「平均化」という恐るべき脳のトリック

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目で何かを見たり、観察したりするときに、実際にどのような経過をたどっているのかを示す新たな研究結果が明らかになった。

どういうことか、携帯電話の動画機能を用いて実験してみよう。画面をちょうど目の前に置き、画面に映ったライブ映像をファインダーに見立てて撮影を始めてみてほしい。画面に映し出された姿、色、そして動きを目で追うと、気分が悪くなるはずだ。科学者によると、このような画面の映像の動きは、我々の目が絶え間なく脳に突きつけている、乱れた視覚データによく似ているという。

では、吐き気を起こさずに何かを見たり観察したりするには、どうすれば良いだろうか。

われわれは、直近15秒間に見た映像を「平均化」して知覚する


先月、アバディーン大学およびカリフォルニア大学バークレー校の研究者たちによる新たな論文が、科学ジャーナルの『サイエンス・アドバンシス』に掲載された。同論文はその中で、「今回新たに発見された、目で何かを見るときに生じる錯覚」について述べている。この錯覚は、時間の経過に合わせて我々の視覚情報を安定的に保つために役立っているという。

「実際に目で見た断片的な映像を一つひとつ分析するのではなく、過ぎ去った15秒間に見た映像を平均化し、それをある瞬間に見たものと知覚しているのです」。論文が掲載されたサイト「ザ・カンバセーション」の中で、著者たちはこのように述べている。

このサイトでは、科学者が最新の研究の詳細を定期的に綴っている。「つまり、物体同士を引き寄せ、それぞれが似ているように見せかけ、我々が安定した環境にいると知覚するように、脳が仕向けているわけです。『過ぎ去った時間』に生きること、これが、時間の経過とともに微妙な変化が生じても気づかない理由となるわけです」

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この「安定した環境で何かを見るときに生じる錯覚」という考え方には、十分な説明が必要だろう。少し離れた場所にあるものに注目し、その通り道にあるものを「自動追跡」する能力が安定して保たれているとしよう。では、注目している間、眼球そのものに起きていることを考えてみてほしい。離れた場所にある物体に注目している間、眼球は、視覚情報の安定感を保つためにあちこち動き回らなければならない。まるでその様子は、直立した軸のそばを動き回るジャイロスコープのようだ。


(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から転載したものである。)

翻訳=神原里枝 編集=石井節子

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