研究チームは、約3200年前にこれまで知られていなかった20センチメートルの海面上昇が起きていた証拠を発見した。温暖期の末期に氷冠が自然に溶けた結果、海面は4世紀以上に渡り年平均0.5ミリメートルずつ上昇を続けた。それ以外には、中世温暖期や小氷河期などの気候現象があったにも関わらず、1900年まで海面水位は極めて安定していた。
「我々の研究報告が示す結果は憂慮すべきものです」と主執筆者で南フロリダ大学地質学教授のボグダン・P・オナックは語る。「この1900年代以降の海面上昇は、過去4000年間における氷量の自然変化と比べて異例です。これは、もし地球温度が上昇を続ければいずれ海面水位はこれまで科学者が予測していた以上の高いレベルに達する可能性があることを示しています」
海面水位の時間変化を調べるために、研究チームは地中海沿岸沿いの8つの洞窟から13のサンプルを採取した。採取された鉱床は海水が繰返し浸水を続けた洞窟通路の海岸線近くでのみ形成されるため稀少で、海面水位の時間変化の正確な指標となる。
測定結果はハーバード大学の複雑なソフトウェアを較正するために用いられたほか、異なる気候シナリオでの海面水位予測の生成にも使用された。
「もし今後も人類が主役であり続け、近い将来気温が1.5度上昇すれば、回復不能な損害が生じます」とオナック教授は警告する。「そこからはもう後戻りできません」
南極およびグリーンランドにおける氷塊量の損失に基づくと、2008年以降の平均海面上昇は年間1.43ミリメートルであり、3200年前よりもずっと速い。
「仮に今すぐに止めたとしても、海面水位は少なくとも数十年、もしかしたら数百年上昇を続けるでしょう。理由は単純で地球が温暖化しているからです」
将来の海面上昇モデルは、今後100年以内に100センチメートル前後というのが一般的だ。氷床と氷河の融解速度、海洋循環パターンの変化、水温、干満差、高潮、沿岸地形、地盤沈下などさまざまな要因を考えなくてはならない。
NASAの海面水位予測ツールは、いくつかの温暖化ガス排出と社会経済のシナリオに基づく将来の海面水位の可能性を提示している。低排出の未来では、地球温暖化は1.5度に抑えられ、現状の排出が続く「普段どおり」のシナリオでは、今世紀末の推定地球温暖化は産業革命前水準より2〜4度高くなり、「加速された排出」シナリオでは温度上昇は4度をはるかに超える。
低排出の未来は人類が温暖化ガスの排出を減らすことなどで起こり、気候変動による海面変動の影響を減少させる。高排出予測では2度以上の温暖化が生じ、グリーンランドの氷床が溶け出すのに十分な温度上昇となって世界の海面水位を2メートル以上上昇させる原因になる、とTheScientistは報告している。
海面上昇は世界で推定2億6700万人を避難させ、洪水のリスクを高め、海岸侵食を起こし、海岸付近に住む動植物の生息地を奪う可能性がある。
論文「Exceptionally stable preindustrial sea level inferred from the western Mediterranean Sea(地中海西部から推測される産業革命以前の例外的に安定した海面水位)」はScience Advances(2022)に掲載された。資料は南フロリダ大学から提供されている。