成長株投資のパイオニアであるトーマス・ロウ・プライス・ジュニアがミューチュアル・ファンドを立ち上げた1950年、ファンド・ビジネスはまだ初期段階にあった。グロース・ストック・ファンドは、将来有望な銘柄を買うという創業者のビジョンを継承し、成長株投資を続けている。創業者のプライスにとって有望銘柄とは、IBMやキャッシュレジスターのNCRだった。一方、ファスにとっての有望銘柄は、アマゾンやマイクロソフト、グーグルの親会社アルファベット、そしてリヴィアンだ。
ティー・ロウ・プライスは常にアクティブ運用を強みとして莫大な利益を上げてきたが、いまでは、インデックス・ファンドを手がける他社が脅威となっている。同社では6年連続で純資金流出が続いている、とモーニングスターは指摘する。ファスのファンドも、2020年に58億ドルが流出。21年上期、流出スピードは37億ドルまで上昇した。
790億ドルを運用して資産を増やしているバンガード・グロース・インデックス・ファンドと比べると、手数料はバンガードのETFシェアクラスの年間手数料は運用資産の0.04%、ティー・ロウ・プライスのグロース・ストック・ファンドの個人投資家向け手数料は年間0.64%で16倍と不利だ。だが、バンガード・ファンドの運用先は279銘柄であるのに対し、グロース・ストック・ファンドは93銘柄と投資対象を絞り込んでいる。つまり、単一銘柄への大規模な投資が可能なのだ。また、グロース・ストック・ファンドは未公開企業にも資産の最大15%まで投資できるのに対して、バンガードのインデックス・ファンドは一切保有できない。
リヴィアンは、21年11月に評価額900億ドルで株式公開を果たしたが、ファスのファンドは、同社の上場前の数ラウンドの資金調達を主導した。未公開企業の段階からかかわったことで、大きな運用実績を上げたのだ。ファスはこのほか、ドアダッシュ、スノーフレイク、エアビーアンドビーにも上場前に資金を投入し、大きな利益を上げ、テスラの共同創業者JBストラウベルが創設したバッテリー・リサイクルの未公開企業レッドウッド・マテリアルズにも投資している。
「このビジネスで絶対に避けたいのは、手をこまねいていることです。そうでしょ?」(ファス)
上場までに時間をかけ、上場前に大きな時価総額を達成する企業が増えるなか、成長曲線を先取りするには初期の資金調達ラウンドで投資する必要があるというわけだ。