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2022.07.29

キャッシュレス決済からWeb3.0や地球温暖化対策まで。「金融×テクノロジー」の過去と未来

藤井 達人(日本マイクロソフト株式会社 エンタープライズサービス事業本部 業務執行役員)

現代において、テクノロジーとビジネスは「車の両輪」と言える存在だ。イノベーションのサイクルは年々加速し、目まぐるしく進化していく技術が常にビジネスを牽引してきた。次のトレンドを把握し、その波に乗っていくことで、事業の成功率は飛躍的に高まっていくだろう。

今後、世界ではどのようなITトレンドが生まれていくのだろうか? この疑問に答えるため、日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員の藤井達人氏がメディア「xTECH」(クロステック)で「金融×テクノロジー」をテーマにコラムの連載を始める。

コラムの連載に先駆けて本記事では、執筆を担当する藤井氏が歩んできたキャリアから、「金融×テクノロジー」の領域がどのような変遷を辿ってきたのかを伺う。


※本記事は三菱地所が運営するメディア、「xTECH」からの転載です。


大学時代から一貫してITと金融に興味を持ち続けてきた


はじめに私が学生時代からどのようなキャリア歩んできたのかご紹介します。私の専門領域はITと金融ですが、大学時代から一貫してITと金融に興味を持ち続けてきました。
私は同志社大学の商学部に通っていました。当時は株式会社IIJ(インターネットイニシアティブ)が日本で初めてサービスプロバイダを立ち上げ、政府がIT革命を提唱した時期です。みんなが「これからはITが世の中を変えていく時代になるだろう」と予感していましたし、私もコンピュータサイエンスの講座を取りながら「テクノロジーは世の中をどのように便利にしてくれるのだろう」とワクワクしていましたね。

1998年に社会人になってからは、金融業界で勘定系と呼ばれるシステムに関わるようになりました。

はじめに入社したのはIBMで、メガバンクの基幹系システムの開発や、金融機関向けのコンサル業務に従事しました。その後、マイクロソフトに転職。どちらの会社でもコンサルとして、エンタープライズアーキテクチャーに基づくシステムの最適化や、IT戦略立案プロジェクトなどを担当していました。



フィンテックに初めて触れたのはマイクロソフトに入社してからです。2011年に、本社のシアトルに数か月間滞在しましたが、現地ではスマホのイヤフォンジャックにドングルと呼ばれる小さな機器を挿してクレジット決済ができる『Square』(現『Block』)が広がり始めていて、エポックメイキングだと感じました。
それまではアメリカでお店がクレジット決済に加入する場合、申し込みから1ヶ月半の審査が必要でした。さらに初期費用を20〜30万円払ってようやくお店に導入できたのです。

一方、『Square』は申し込めばデバイスが送られてきて、スマホに挿すだけで決済ができます。お店が規約違反をしてないかどうかは利用データから導き出し、規約違反があれば利用を差し止める方式でした。この方式を採用すれば導入時の審査という手順を省くことができ、決済手数料も大きく下げられます。

『Square』のような非金融業者のプロダクトが街の小さなお店に広がっている様子を見て、「今後はテクノロジーが金融のインフラをつくっていく、プレイヤーが大きく変わる!」と興奮しました。

日本のフィンテックを牽引するために三菱UFJ銀行へ


その後、日本に帰ってきた私は「フィンテックを活用する側に行きたい」と思い、三菱東京UFJ銀行(現 三菱UFJ銀行)に転職しました。

スタートアップに行く選択肢もありましたが、「大きなアセットと影響力を持つ会社がムーブメントを牽引していく方が、世の中はいち早く便利になるのでは」と考え、三菱UFJ銀行の門を叩いたのです。

当時は2013年で、日本にフィンテックという言葉はありませんでしたが、三菱UFJ銀行にはその頃の金融業界では珍しいIT×イノベーションの専門部署があり、30人くらいの小さな組織で最先端事例を調査していました。

当時は「フィンテックは小出しにやっても進まないので、大きなブランド名を使って、フィンテックを全面に出して進めれば、日本全体にインパクトが出せるかもしれない」と考えていました。

そこで、2014年の夏に企画を立て、2015年2月に日本初のフィンテックのビジネスコンテスト『フィンテック・チャレンジ』を開催。このコンテストにはfreeeやZUU、Finatextなど後々上場する企業が多数参加していました。重くて動きが遅そうな印象があるメガバンクが先導してフィンテックを推進し始めたので、当時は話題になりましたね。



『フィンテック・チャレンジ』は国内の金融機関がフィンテックに目を向けるきっかけにもなったイベントだと思います。一方で、課題も見えてきました。

銀行にもシステム部署はありますが、基本的に勘定系など銀行の大きなシステムの開発・運用を行う部門なので、アジャイルな対応が求められるフィンテックサービスとは距離がありました。つまり、当時、銀行は自ら新しいデジタルの仕組みをつくるケイパビリティがなかったので、フィンテックに長けたスタートアップ企業とオープンイノベーションでタッグを組む必要がありました。

スタートアップ企業とメガバンクがタッグを組むために、オフィシャルな場が必要で、膝を詰めて、一緒に何ができるかを共に考えていく機会が必要でした。2016年からはアクセラレータプログラム “MUFGデジタルアクセラレータ” に衣替えをして、対象業務をカードや証券など銀行以外の金融サービスにも広げました。プログラムにはMUFGの各社から業務知識の豊富なメンターアサインして、4ヶ月かけてスタートアップと事業計画を立てるプロジェクトを始めました。

私が三菱UFJ銀行から離れた後もプログラムは続いていて、いまは第6期の企画をしていると聞いています。毎期ごとに成果が出ていて、直近だとクレジットスコアリングをAPIで提供するCrezitがアコム株式会社と資本提携するきっかけにもなったようです。

KDDIに転職後再びマイクロソフトへ、金融機関のDXを支援


三菱UFJには6年間在籍して一通りやりたいことがやれたので、私はステップアップのためにKDDIの金融子会社であるauフィナンシャルホールディングスに執行役員CDO(チーフデジタルオフィサー)として移りました。

当時すでに、異業種の企業が金融領域へと続々と参入してきており、通信キャリアをはじめ、イオンやセブン&アイなどの小売業も金融サービスを提供していました。消費者にとってデジタル金融サービスがより身近になりつつあるタイミングでしたし、既存のサービスに金融を埋め込めばもっと便利な世の中になっていくはずと考えました。同社の「スマートフォンで金融をつくり直す」というコンセプトにも共感したので転職を決めました。

同社に在籍中、「au PAY」のアプリに乗せる金融ミニアプリの企画、民間ブロックチェーンのデジタル通貨の開発などフィンテックプロジェクトだけでなく、子会社のシステム環境整備や内部統制対応を担当するなど非常に濃い期間を過ごしました。

auフィナンシャルホールディングスを離れた後は、再びマイクロソフトに移籍。その決め手は、「マイクロソフトで働けば、さまざまな金融機関と関わりながら日本の金融をアップデートできる」と考えたからです。

以前のマイクロソフトは、主にソフトウェアのライセンスを販売することで収益を上げる会社でしたが、現在は金融機関にデジタルインフラを提供し、パートナー企業と共にビジネスを育てていく会社に変化しています。単にシステムを提供するだけでなく、互いに目標を共有し、投資を行いビジネスを成長させる企業だとみなされるようになったのです。

私はもっとテクノロジーで日本を便利にしていきたいと思っていましたし、ひとつの会社にコミットするフェーズから、銀行・証券・保険・地方銀行など、さまざまな金融機関のDXを支援することで経験値が上げられるだろうと考え、現職に至ります。

振り返ってみると、学生時代から金融という軸は外さず、無意識に、興味に応じるまま、「テクノロジーでいかに世の中を便利にできるか」を追い続けてキャリアを歩んできました。



「金融×テクノロジー」の事例を紹介するコラム


自己紹介を終えたところで、今後連載していくコラムの構想も話しておきましょう。

コラムでは、金融×テクノロジーの最新トレンドをテーマに連載していきます。紹介するトレンドは金融業界に限らず、さまざまな業界で起きているトピックを取り上げたいと考えています。なぜかというと、現代は金融業と他業種をはっきりと区分けして語れない世の中になってきているからです。

近年では、小売業や通信キャリアが金融サービスを提供していますし、逆に金融機関が他業種へ金融サービスを提供するケースも増えてきました。たとえば、スーパーアプリ経由で加入できるゴルフ保険を大手の保険会社が提供していたりします。

さらに、自動車がコネクティッドになっていくと自動車自体が決済媒体になっていくでしょう。世の中にはすでにETCという仕組みがありますが、自動車自身がウォレットになるイメージです。自動車メーカーが走行データからオーナーの与信を測り、金融に活かすようなモデルも一般化していくかもしれません。

自社が保有するデータをマネタイズしたい会社は多いですから、今後もさまざまな企業が金融ビジネスに参入するでしょう。



金融×テクノロジーは新陳代謝が激しい領域です。新しいトレンドがキーワードとして盛んに宣伝され、そのなかで生き残ったものが次の主流になっています。

これらのトレンドは2〜3年で実用的になり本格的に普及が始まります。したがって、サイクルがとても早い。インターネットバンキングやオンライン証券が約10年で普及したことに鑑みると、昨今のトレンドは以前に比べて速度が明らかに増しています。

この背景の1つとして、VCによるスタートアップ出資の活性化があります。資金が集まれば開発者が集まり、プロダクトの開発サイクルが短くなる。欧米でもサイクルが高速化していて、今ではアメリカの西海岸でフィンテックといえば多くがデジタルアセットやブロックチェーンを指すようになっていきています。

ブロックチェーンは登場した当初、金融業から異質なものと捉えられていました。私が銀行にいた時も、暗号資産(仮想通貨)はイリーガルで触ってはいけないもの、のような扱われ方をされていましたね。しかし、ブロックチェーンと金融の相性の良さや、既存のシステムが効率化できることが明らかになると、金融機関によってはデジタル化戦略の中核を担うようにまでなってきました。

今では欧米の金融機関はブロックチェーンに大きな投資をしていますし、私もブロックチェーンは次世代の金融インフラを担うことになるだろうと考えています。まだ市民権を得るまでには至っていませんが、少なくとも技術的な部分は確立されていますし、日本の金融業界でも「取り入れなければまずいよね」と思うくらいに、過去3〜4年で業界の常識が全くと言ってよいほど変わるのを目にしてきました。

加えて、金融業界で現在注目度が上がってきているキーワードは、NFTやメタバース、Web3です。これは金融だけでなく全産業を対象にしているムーブメントで、DeFi(Decentralized Finance)、つまり分散型金融と大きく絡み、金融業界がどのように関わっていくのか盛んに議論されています。金融業界がこれらにどのように取り組むのか、答えは3〜4年かけてようやく見えてくる気がします。

いま世界で注目されるグリーンビジネス


同様に、全業種を対象にしているテーマには、サステナビリティやグリーンビジネスがあります。これは世界の存続に関わるものなので全産業、全人類が対象になります。従来のトレンドとはスケールが違いますよね。

例えば脱炭素において、金融機関は投融資先に対する責任があります。金融機関が「このプロジェクトはサステナビリティに貢献しないのでお金を引き揚げます」と判断すれば、プロジェクトの進行を止めることもできるわけです。したがって、金融機関はサステナビリティの方向づけや正常化において重要な役割を担っています。
また、サステナビリティは科学的にやっていく必要があります実態を数値化・分析して、効果的に対策をしていかなければ効果が出ません。そのためには、テクノロジーによる仕組み構築が不可欠になります。

グリーンビジネス×フィンテックの一例として紹介したいのが、イタリアのデジタルバンク『Flowe(フロウィ)』が提供しているデビットカードです。

このデジタルバンクは2020年から運営を開始しているもので、例えば同行が提供するデビットカードで決済をすると、買い物あたりどれくらいのCO2を排出しているのか、アプリ上で可視化して見せてくれるんですね。さらに一定量CO2が溜まるとアプリから植樹をすることもできます。

このように、CO2の排出量が見える化されると、「より環境負荷が少ない店で買おう」、あるいは「CO2排出が少ない手段に変更しよう」といったように消費者に行動変容が起きてきます。フロウィ自身も自分たちを「行動変容のプラットフォーム」と呼んでいて、デジタルバンクであると同時にサステナビリティに貢献したい層の人々を支援するシステムになっているのです。

特にヨーロッパではサステナビリティに関心を持っている人が若者世代を中心に増えています。サステナビリティに取り組むことはある種のブランドにもなってきていて、例えば若い人は就職する企業を考える時に、企業がどのようにサステナビリティに貢献しているかを調べるそうです。

一方、日本でもあるスタートアップ企業ががクレジットカード会社と組んで、類似のカードを出すという発表もされました。経産省もサステナブルな行動をした人にポイントを与える制度を準備しています。日本にも近いうちに、大きなサステナビリティのトレンドが来るでしょう。

今回紹介したケースのほかにも、グリーンフィンテックには複数のカテゴリーがあり、決済や投資、データ分析、クラウドファンディング、保険など、あらゆるビジネスにグリーン要素が取り上げられています。

最近ではブロックチェーンを使ったボランタリークレジットも登場しており、個人向けのカーボンクレジットの役割を担う暗号資産も登場しました。社会全体でサステナビリティのニーズが増えているので、グリーンビジネスに投資するVCも増加傾向にあります。

サステナビリティへの取組みは世界的に待ったなしで進んでいるわけですが、この潮流のなかで欧米は、市場を自ら主導しながら、ビジネスの標準化を進めています。自分たちがスタンダードをつくって先行者アドバンテージを得て、基幹産業として市場の主導権を握っていく意識が強いのです。
私のコラムのなかでもグリーンビジネスについて触れていく予定ですし、マイクロソフトも大きく投資している分野なので、興味深い情報を提供できると思います。



「今後、世界はどのように便利になっていくのか?」その問いに答えていく


2022年現在、金融サービスはデジタル化が進み、利便性がかなり向上しました。今ではわざわざ銀行や証券会社の店舗に行かなくても大抵の取引ができますし、自分の金融資産もアプリで管理できます。ロボアドバイザーを使うと、比較的低コストで資産運用を一定程度自動化することもできる世の中になっています。

そして、ブロックチェーンの登場で分散型金融やNFTが金融を大きく変えていく可能性が出てきました。

私は金融×テクノロジーの領域で働きながら「これ以上便利な世界は何だろう?」という問いを追求しています。コラムではその問いのなかで見つけた先進的な事例を紹介していく予定です。今後の連載を楽しみにしていてください。

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ふじい・たつと◎日本マイクロソフト株式会社 エンタープライズサービス事業本部 業務執行役員
1998年よりIBMにてメガバンクの基幹系開発、金融機関向けコンサル業務に従事。その後、マイクロソフトを経てMUFGのイノベーション事業に参画しDXプロジェクトをリード。おもな活動としてFintech Challenge、MUFG Digitalアクセラレータ、オープンAPI、MUFGコイン等。その後、auフィナンシャルホールディングスにて、執行役員チーフデジタルオフィサーとして金融スーパーアプリの開発等をリード。現在はマイクロソフトに復帰し金融機関のDX推進に携わる。一般社団法人FINOVATORSを設立しフィンテック企業の支援等も行っている。2021年より日本ブロックチェーン協会理事に就任。同志社大卒、東大EMP第17期修了。


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