英医学誌ランセットのザ・ランセット・パブリック・ヘルス(The Lancet Public Health)に発表された新たな調査によると、各国がリスク要因に対処しない限り、世界中で認知症を抱える成人(40歳以上)の数は2019年の推定約5700万人から、2050年には3倍近くに当たる約1億5300万人まで増加することが見込まれている。
認知症の症例数は全ての国で増加するだろう。推定増加率が最も小さいのは収入が高いアジア太平洋地域(53%)と西欧(74%)で、最も高いのは北アフリカと中東(367%)やサハラ以南のアフリカ東部(357%)だ。
世界の認知症数が大幅に増加している背景にある主な理由は、人口の成長と高齢化だ。世界人口は2030年に約85億人に達し、2050年には約97億人、2100年には約112億人になると予測されている。また、65歳以上の人口は世界のほぼ全域で、全人口の増加率を上回る速度で増えている。とはいえ、認知症は主に高齢者に見られるものの、高齢化に通常伴うものではない。
ランセットの研究は世界の195カ国における認知症のまん延を分析し、喫煙や肥満、高血糖、教育水準の低さの4つのリスク要因が将来の動向にもたらす影響を示した。同調査では、世界における教育の機会を改善することにより、2050年までに世界の認知症の数を約620万件減らせると予測されている。
しかし、肥満や高血糖、喫煙の傾向が増えると予想されていることから、認知症の数はさらに約680万件増えると予測され、先述の認知症の減少は相殺されるだろう。私たちは本当に、リスク要因に焦点を当てるなど簡単なことで認知症の危機を解決できるのだろうか?
研究からは、たとえ認知症の家系であっても健康的な生活様式により認知症のリスクを軽減できることが示されている。しかし、ハーバード・メディカル・スクール生物医学情報学部の助教であるチラグ・パテル博士は、次のように述べている。
「遺伝子的なリスクが高い人口が生活様式を変え、その生活様式がアルツハイマー病を引き起こすことで知られていたら(これは大きな仮定だ)、10年のうちに認知症121件のうち1件を予防できるだろう。これは重要なことだが、10人や50人、さらには120人の間でアルツハイマー病を予防するには一体いくつ生活様式を変えなければならないだろう? 遺伝子さえ、本当に重要なのだろうか?」