例えばLGBTQの人たちの存在です。従来型の顧客ターゲティングでは見過ごされていますが、実は少なくとも人口の6〜7%がLGBTQだとされています。その人たちの困りごとを知ることは、新しいビジネスアイデアを生み出すヒントになります。
また、NPOはひとつの社会課題の解決に向かって徹底的に改善していくやり方が主流で、物事の進め方やスピードはスタートアップとよく似ています。ビジネスパーソンはつい利益やインパクトの大小で物事を判断しがちですが、NPOにかかわるようになったおかげで私自身、より柔軟にビジネスのあり方を考えられるようになりました。
企業はもっとNPO経験者の知見を組織に取り入れるべきです。NPOには、いい意味での野望と推進力をもったリーダーや熱い志をもった人たちが大勢います。企業の思いや意志を軸にした「パーパス経営」は、社会に目を向けていないとできません。ソーシャルの領域に目が開かれた人たちが組織のなかに入ってくることで、「この会社のパーパスは何か」といった根本的な問いが出やすくなる。
NPO経験者の活躍の場が広がると、社会が変わると思います。「人生100年時代」といわれますが、心豊かに生きるためには自ら社会との接点をもち続ける姿勢がとても重要です。私の場合、NPOの活動から学ぶことも、活動を通じてビジネスの世界では知り合うことがなかった人たちに出会うことも、NPOの人や組織や社会が変わっていくのを見るのも楽しい。こんなに学べてワクワクできるのだから、みんなNPOにかかわればいいのにと思っています。
安渕聖司◎アクサ・ホールディングス・ジャパン代表取締役社長兼CEO。早稲田大学政経学部卒、ハーバード大学経営大学院卒(MBA)。三菱商事、GEキャピタル・ジャパン社長兼CEO、ビザ・ワールドワイド・ジャパン社長などを経て2019年から現職。