疲労した医師は、患者の痛みへの共感力が低下する

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疲れが溜まった医師は、痛みを訴える患者の身になって共感する力が弱くなり、痛み止め薬を処方する傾向が低下することが、最新研究で明らかになった。

この研究を実施した研究チームは、内科医の集団を対象に、痛みを訴えている2人の患者を診察する想定で質問をした。1人の患者は頭痛を訴える女性、もう1人の患者は腰痛を訴える男性という設定だ。

それぞれの患者について、どの程度の痛みだと思うか、また、鎮痛剤を処方する可能性はどのくらいあるかを、医師らに尋ねた。その結果、勤務開始直後の医師のほうが、26時間勤務を終えた直後の医師よりも、痛みを訴える患者に対して共感を示す傾向が全般的に強いことがわかった。

この研究は、ミズーリ大学医学部の研究者ならびにイスラエルの研究チームが合同で実施し、米国科学アカデミーの機関誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」で発表された。

「疼痛管理では、夜間勤務による影響で、これまでは認識されてこなかった重大な偏りが生じていることが、今回の研究によって示された。こうした偏りの原因は、医師が患者の痛みを適切に認識しないことだと見られる」。研究論文を執筆したミズーリ大学医学部のデイビッド・ゴザル(David Gozal)医師は、そう述べた。ゴザルは、ミズーリ大学医科大学院のマリー・M&ハリー・L・スミス(Marie M. and Harry L. Smith)寄付基金による小児保健研究部門の主任を務めている。

さらに研究チームは、米国とイスラエルの両国で、痛みの症状を訴えて医療機関で診察を受けた患者の電子カルテ1万3000件を調査した。その結果、患者が夜間勤務中の医師から診察を受けた場合には、鎮痛剤を処方された確率がイスラエルで11%、米国で9%低くなったことがわかった。

「疼痛管理は大変難しい。そして、患者の主観的な痛みを医師がどう認識するかは、バイアスに左右されやすい」とゴザルは述べた。

夜間診療時に医師が鎮痛剤を処方する傾向が低くなるという研究結果が出たのは、今回が初めてだ。しかし、鎮痛剤の処方に偏りがみられることは以前から知られている。注目すべきは、ある研究によると、緊急治療室で診察する医師が黒人患者にオピオイド鎮痛薬を処方する確率は、白人患者の場合のおよそ半分であることが明らかになっていることだ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックはいまだ終息しておらず、燃え尽き症候群(バーンアウト)の症状や疲労を訴える医師や看護師が記録的な数に上っている。そうした状況が、痛みを訴える患者に鎮痛剤を処方する際に偏りが生じる一因になっている可能性がある。

ゴザルは今回の研究について、「こうした偏りを解消するために、疼痛管理をより体系的に示したガイドラインを作成して導入することと、医師たちにこうした偏りについて周知させることの必要性が浮き彫りとなった」と述べた。さらに、医師の勤務体制が共感力の低下や「決断疲れ(意思決定を長時間繰り返した後に個人の決定の質が低下する現象)」を招きうることを医療機関が認識することも重要だとしている。

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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