現在、200億米ドル以上の資産をもつアトラシアン(Atlassian)共同創業者で共同CEOのマイク・キャノン・ブルックスは、昨年10月下旬、妻のアニーとともに、気候変動の抑制に取り組む非営利団体に2030年までに5億豪ドル(約404億円)を寄付すると宣言した。
しかし、現在42歳のブルックスが求めているのは、単なる慈善活動ではない。寄付を宣言したのと同じ日に、彼は再生可能エネルギー関連のプロジェクトへの投資を倍増させることを発表し、自身の投資会社のGrok Venturesから新規で10億豪ドルをこの分野に出資すると発表した。
オーストラリアは金額ベースで世界最大の石炭輸出国だ。環境意識の高い国々が化石燃料の輸入に炭素税を課したり、化石燃料の購入を止めたりするようになると、オーストラリアの企業は、より一層サステナブルにならざるをえない、とブルックスは語る。
化石燃料への依存から再生可能エネルギーへの移行には「ファイナンスの面からも、フィランソロピーの面からも、両方の投資が必要になる」と彼は言う。「新しいテクノロジーが異なる場所や地域でどのようにワークするのか。さらに多くの研究が必要になるからです」
ブルックスは、鉱業界の大富豪でツイッギーの愛称で呼ばれるアンドリュー・フォレストと共同で、「世界最大の太陽光発電プロジェクト」に取り組むスタートアップの「サンケーブル(Sun Cable)」を支援している。同社はノーザンテリトリーの砂漠地帯にメガソーラーを建設し、全長4200kmの高圧直流海底ケーブル(HVDC)を介してシンガポールに電力を輸出する計画だ。
また、ブルックスが運営するGrok Venturesは、オーストラリアの住宅にソーラーパネルを設置するための融資をするフィンテックのBrighteをはじめ、20社以上のスタートアップを支援しており、そのなかには代替タンパク質の開発を手がける企業や、ロボット工学などさまざまなものが含まれる。
しかし、彼に最も富をもたらしているのは、2002年に大学卒業と同時に共同設立した法人向けソフトウェア企業のアトラシアンだ。2021年に株価を50%以上も上昇させた同社の時価総額は、10月に初めて1000億ドルを超え、IBMを追い抜いた。NASAやテスラ、スペースXなどを顧客にもつアトラシアンは、上場以来、年平均35%以上のペースで増収を記録している。
「私たちは、過去20年間、着実に成長してきたが、今後もその勢いを止めるつもりはない」とブルックスは話す。環境分野への投資が成功すれば、彼は成功したテクノロジー分野の起業家以上の存在として語り継がれることになるのかもしれない。
マイク・キャノン・ブルックス◎1979年生まれ。2002年、ニューサウスウェールズ大学情報システム科卒業と同時にソフトウェア開発者を対象とした法人向けソフトウェア開発企業のアトラシアンを共同創業。現在時価総額800億ドル(約9兆円)。