この災害が発生する前の1カ月は暖かい気候が続き、前日には標高3343メートルの山頂の気温が観測史上最も高い10度を記録していた。
山間部での土砂崩れや雪崩、落石事故に関しては、気温上昇が大きな懸念材料になっている。
地形学者で登山家のアルノー・J・A・M・テムメは2016年に、古いガイドブックを使って人気のあるハイキング・登山ルートでの落石事故を確かめた。
調査は、スイスアルプスのアイガー地方にある5つの山のルートについて、その危険性を認識することに焦点を当てたものだ。経験豊富な登山家によって岩がもろいと指摘された69ルート(調査対象の19%)で、突然の落石事故のリスクが高まっていることが明らかになった。
このように、崖がより不安定になっていると登山家が認識する傾向はここ数十年で特に強くなっている。また、調査したルートのうち7ルートが危険だとして最新のガイドブックから削除された。
大規模な地滑りについてはそうした傾向はそれほど明確ではない。
オーストリア・インスブルック大学の研究者は2008年に、中央アルプスの地滑りや土石流について、入手可能な年代を調査した。そのデータベースは、完全ではないにせよ1万年分をカバーしている。その結果、4200〜3000年前の温暖で湿潤な気候だった時代に、大規模な地すべりが集中発生していたことがわかった。
気温の上昇は、氷河の縮小と凍土の融解を引き起こす。その結果、山の斜面は急速に支えを失い、「氷」の接着剤でくっついている状態になっている。また気候変動は降水パターンも変化させ、冬に雪が少なく夏に雨が多くなっている。出現している岩の裂け目から水が入り込み、潤滑油のような役割を果たし、巨大な岩や氷の塊を滑らせ、山肌は重力によって落ちていく。