このような医療格差の問題の一つが、必要な手術を受けられないことだ。多くの患者たちは、専門の外科医がいる医療センターにたどり着くために、何時間もかけて移動することを強いられる。患者の疾患が複雑であるほど、このような状況に陥りやすい。患者にとって、医療機関までの移動は負担が大きく、生活の質を下げるものになりかねない。
こうした問題の解決に取り組む企業のひとつに、プロキシミー(Proximie)があげられる。プロキシミーは、「臨床医が、世界中のあらゆる手術室やカテーテル検査室にバーチャル入室できるようにする」とうたうテクノロジー企業だ。「臨床医たちに、リアルタイムでのスキル共有を促すことで、医療の質のばらつきを抑え、すべての患者がいつでも最高の医療を受けられるようにする」と、同社は述べる。
同社は6月14日、シリーズCの資金調達で8000万ドルを獲得したと発表した。主な出資者は、アドヴェント・ライフサイエンシズ(Advent Life Sciences)などだった。
プロキシミーはプレスリリースのなかで、同社は2021年に1万3000件の手術をサポートし、現在は約100カ国にまでサービスを拡大したと説明している。
同社の創業者でCEOを務めるナディーン・ハシャシ=ハラム(Nadine Hachach-Haram)医師は、「我々のビジョンは、世界の手術室とカテーテル検査室をつないで、質の高いデータで手術を民主化することだ」と語る。
「我々は、外科医がすべての手術室にバーチャル入室できるようにするところからスタートした。現在はこの技術を利用して、手術室をデジタル化し、世界最高峰の外科医たちの集合知という恩恵を、患者に提供することに取り組んでいる。プロキシミーが収集し共有したデータは、患者がどこに住んでいても、命を救う医療を受けられるように支援することに使われる」
プロキシミーは明らかに注目を集めているが、この分野をけん引するテクノロジー企業は同社だけではない。すでにこの分野で名声を確立している主要プレーヤーに、マイクロソフトのホロレンズがある。このプラットフォームも、同様の問題の解決を目指している。
実際にリモートで手術をおこなうことに関しては、テクノロジーはまだ発展途上だ。拡張現実(AR)・仮想現実(VR)における相互作用に極めて本質的な変化をもたらすと目されているのが、Metaがリアリティラボと共同で取り組む、バーチャル世界への「触覚」の導入だ。
メタバースに触覚を組み込んでこのような体験を実現するため、両社の研究チームは触覚刺激グローブを開発している。装着感がよく、カスタマイズ可能で、手触り、圧力、振動といったさまざまな感覚刺激をバーチャル世界で再現できるグローブだ。
手術や臨床医療にとって、触り心地や圧力といった感覚刺激は不可欠な要素だ。バーチャル手術の実現に向けて、この分野でまだまだ多くの重要な進展が必要であることは間違いないが、コンセプトそのものは前途有望だ。
どんな遠隔医療ソリューションについても、究極的には、患者の安全とプライバシーを最高水準に維持することが必要だ。だが、もしこうした要件が満たされ、またテクノロジーの有効性が裏付けられれば、近い将来、手術のあり方は劇的に変わるかもしれない。