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2022.07.05

日本の「未来の宝」を救出する選択肢としてのエコシステム


:これは、IABが慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)というプラットフォームの上に乗っかっている研究所という点も大きかったのでしょうか。おそらく、同じ慶應でも他のキャンパス(日吉や三田)だと違う文化になりますよね。そのあたりはどのように分析していらっしゃいますか?

冨田:たしかに、SFCにも「人と違うことをしよう」という組織文化がありますね。

:私もそう思います。

冨田:そもそも、これは「自我作古(前人未踏の新しい分野に挑戦し、たとえ困難や試練が待ち受けていても、それに耐えて開拓に当たるという、勇気と使命感を表した言葉)」をはじめとした福澤諭吉が創設した慶應義塾の理念なんです。IABはこの福澤精神の「自我作古」を「普通は0点」という形で実践してきたのです。IABが創設された2001年は、SFC創設から10年くらいしか経っていません。慶應義塾大学からすれば、いずれも「学内特区」みたいな感じだったかもしれません。

:もしかするとSFCやIABは、性格的には福澤諭吉が学んだ緒方洪庵の「適塾」に近いのかもしれませんね。福澤諭吉が作ろうとした教育機関なのか、福澤諭吉のような人が育つ教育機関なのか。福澤諭吉みたいな人を育てる教育機関も、きっと面白いのではないでしょうか。

スターサイエンティスト研究では、地方で研究所を作るときの成功要因として、スターサイエンティストが1人行くことが決定的に大事だと思っています。それがすべてのスタートで、それを外してしまうと、うまくいかないと基本的には思っています。もし今後、IABのメンバーがIABみたいな研究所を立ち上げることになった場合、冨田さんはどのようなアドバイスを贈りますか? 

冨田:私は常々、人のお尻を叩いてまで研究をさせるくらいなら、あきらめたほうがいいと思っています。仮に、やる気のない学生がいたとしましょう。そういう人に「いつまでに、あれこれしてこい」と厳重に指示すれば、おそらくしてくるでしょう。私が指示した最低限の要件を何とか“形”にして作ってくると思います。でも、それでは本質的にまったく意味がありませんね。つまり、「やっている感」を出すにはいいんだけれども、所詮はやらされているわけですから。

イヤイヤやって“形”だけ作るくらいなら、楽しんでもらったほうがいいと思っています。「研究所の中で遊ぶ」感じですね。大学によっては、会社みたいに命令系統で学生の研究を細かく管理することもあるかと思いますが、少なくとも私はおすすめしません。

これを言っちゃあおしまいかもしれませんが、人材育成なんて、結局はなるようにしかなりません。面白い人はろくに指導なんてしなくても、どんどん面白いことやってきますし、モチベーションの低い人の尻をバンバン叩いても、形を作ってきてもそれではどうにもならない。だとしたら、方向性が違ってもいいので、やる気を出させたほうがいいと思います。やる気の有無、モチベーションの有無は周りのテンションにも影響しますから。「やる気がある人の邪魔をしない、させない」。これが教育でいちばん大切なのではないでしょうか。

:「やる気がある人の邪魔をしない、させない」というメッセージは、とても大事ですね。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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