特に、90分におよぶ製品発表会の中で多くの人が記憶している印象的な場面がある。発表会の冒頭、ジョブズはアップルが3つの新製品を発表することを宣言した。そして、CNETによると「演出の達人」であるジョブズは、この3つの製品が1つのデバイスに集約され、「携帯電話に革命をもたらす」ことを大々的に発表し、聴衆を驚かせた。
15年経った今でも、ジョブズのサプライズ発表は、史上最高のプレゼンの1つとして語り継がれている。iPhoneのプレゼンがすぐにバイブルとなったのには3つの理由がある。
「3の法則」を使う
スティーブ・ジョブズは、コミュニケーション理論における重要な概念である「3の法則」を理解していた。この法則はシンプルだ。人は3つのポイント、あるいは3つのメッセージからなるリストならかなり簡単に思い出すことができるというものだ。リストが長くなるにつれて、人はリスト全体を思い出すことが難しくなる。3つというのは、まさにマジックナンバーなのだ。
そこで、ジョブズは3つの新製品を発表した。1つ目は、ワイドスクリーンのiPodで、タッチ操作ができる。「2つ目は画期的な携帯電話だ」とジョブズは続けた。「そして3つ目は画期的なインターネット通信機器だ」と語った。
さらに強調するために、ジョブズは3つの製品のリストを3回繰り返した。「つまり3つ。タッチ操作のできるワイドスクリーンのiPod、革命的な携帯電話、そして画期的なインターネット通信機器だ。iPod、携帯電話、インターネット通信機器」
次に起こったことは、純粋にプレゼンテーションの天才だった。
パターンを崩す
ジョブズは、プレゼンを3つのパートに分けたり、製品のメリットや特徴を3つ取り上げることがよくあった。そのためジョブズが3つの新しいデバイスを紹介して聴衆をからかうのは珍しいことではなかった。しかし、卓越したコミュニケーション能力の持ち主であるジョブズは、「パターンを崩すこと」が確実に注目を集めることも知っていた。
人間の脳は、新しく驚くべきき「斬新さ」を無視できない。そして、観客が期待しているパターンを崩すことが、斬新なプレゼンの例となる。
ジョブズは、新しいデバイスのリストを何度も繰り返した後、そのパターンを破って、「iPod、携帯電話。わかった? これは3つのデバイスではない。これは、1つのデバイスだ。そして、我々はそれをiPhoneと呼んでいる」とジョブズはついに明かした。
まったく新しい製品を目にして興奮したのと、その演技に感銘を受けたのとで、会場は歓声に包まれた。3つのデバイスを目にするのに驚きはなかったが、これまでのパターンが崩れたことに聴衆はより興奮したようだ。
プレゼンの練習
ジョブズはチャンスを逃さなかった。かなり練習を重ねた。
ジョブズのiPhone発表会のリハーサルに参加したアップルの元幹部たちは、ジョブズはただスライドを見直すだけではなかったと筆者に教えてくれた。ジョブズはまるで、俳優が舞台の準備をするようにプレゼンの練習をしたそうだ。文言の言い回しから、手振りを交えての要点の強調まで、あらゆる角度から何日もかけてリハーサルを行った。
記憶に残るビジネスのプレゼンには創造力が必要だが、それだけの価値がある。ジョブズがプレゼンを簡単にこなせるのは、プレゼンを素晴らしいものにするための努力を惜しまなかったからなのだ。