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2022.09.10

26兆円規模のレッドオーシャンに? デジタルアパレル市場の「熱狂」

Getty Images


「デジタルルックブック」が売れ、ロシア初のデジタルドレス撮影も


2020年3月には、ヤンデックス(ロシアの検索エンジン、ポータルサイト)のプロダクト・リーダーで、拡張現実アプリSloyをローンチしたばかりのダニエル・ターブン氏のために、ロシア連邦中央部、バシコルトスタン共和国の首都ウファを拠点に活動するデザイナー、レジーナ・トルビナ氏がデジタルルックブックを制作した。ターブン氏は、現実には存在しないこのルックブックを5000ルーブル(約11500円)で購入したが、それこそがロシアで初めてデジタルのモノが売れた瞬間だった。

ターブン氏は、2020年5月にデジタルファッションマーケットプレイス「Replicant」を、翌年にはNFTマーケットプレイス「Artisant」をそれぞれ立ち上げた。Replicantのアカウントでは、プーマとアレキサンダー・テレホフ(注目されるロシアのファッションブランド)のコラボレーションを行った。

これは、『Instyle』誌での、ロシア初のデジタルドレス撮影だった。また、アイテムをデジタル化したグッチとノースフェイスとのコラボレーションでは、俳優のイヴァン・ウルガントが起用され、『GQ』誌の表紙を飾った。

ハイ・デジタルファッションはゲームにも──


デジタルドレスといっても、リアルな洋服と制作工程はそれほど変わらない。まず、デザイナーがパターンを起こし、それを3D空間に送る。「Marvelous Designer」や「CLO 3D」といったソフトウエアを使ってデジタルドレスを作るのだが、リアルな洋服を縫うのと同じぐらいの時間をかけて、リアルな3Dコピーを作り出す。デザイナーは、形状をなぞるだけでなく、布地のフィジカルな特徴を再現したり、別のソフトウエアを使ってリアルでふんわりとしたテクスチャーを出さなくてはならない。

だが、苦労に見合った見返りは十分にあるのだ。メーカーや小売業者にとって、デジタルファッションは実用的な価値をもたらす。商業的に成功しそうな洋服を3Dモデリングすれば、予算をほぼ半分に抑えることができるからだ。デジタルコレクションにすれば、縫わなければならないサンプルの数も減る。

デジタルで作った衣料品は、有効なマーケティングツールでもある。デジタルアイテムを見た人々は、驚嘆の声を上げるだろう。その驚きがやがてブランドに広い市場カバレッジをもたらし、メインストリームのメディアに食い込む道を切り拓く。

例えば、バレンシアガはEpic Games社とタッグを組み、オンラインゲーム「フォートナイト」上でアバターが着用する服をデザインし、ゲームの中をハイ・デジタルファッションの世界に変えた。2021年11月末の時点で、フォートナイトコレクションは、モンクレールのダウンジャケットやニットキャップなども加わるほどの広がりを見せ、『GQ』、『rbc.style』、『Esquire』の各ファッション誌やロシアの新聞『Kommersant』でも取り上げられた。

デジタルドレスには、経済やマーケティング的な観点だけでなく、エコロジカルな観点も存在する。オンラインプラットフォームのOrdreによると、ファッション業界はデザインだけで年間24万1000トンもの二酸化炭素を排出しているが、デジタルドレスを制作する場合、排出そのものがまったくない。
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翻訳=上林香織 編集=石井節子

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