イリノイ州からはここ数週間、ボーイング、キャタピラーと、本社を移転する意向を表明した大企業が相次いでおり、シタデルはその最新の例となる。
グリフィンは、従業員宛ての書簡の中で、自身の住まいもすでにマイアミに移したと明かし、系列のシタデル・セキュリティーズについてもフロリダ州に移転させる方針を示していることをフォーブスは確認した。
グリフィンはこの書簡で、フロリダ州のほうがビジネスにとって良い環境だとの持論を展開している。だが同氏は、フロリダ州のロン・デサンティス知事の判断を批判したこともある。同知事は、ディズニーへの優遇税制を含む、オーランドでの特別区制度を廃止する法案に4月22日に署名したが、これについて批判したのだ。
この廃止は、幼稚園から小学3年生までのあいだに、性的指向や性自認に関する議論を禁止する州法(いわゆる「ドント・セイ・ゲイ」法)をめぐって対立したディズニーに対する報復と見られている。
グリフィンは今回、本社移転の理由として、犯罪率を挙げてはいない。しかし、4月のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事では、シカゴでシタデルの従業員が被害者となる事件が多発しているため、本社の移転を検討していると述べていた。グリフィンによれば、「銃を突き付けられて金品を奪われた」社員や、「通勤途中に刺された」社員がいたという。
本社移転は、数年をかけて実施される。広報担当者によると、シカゴを拠点とする約1000人の従業員のうち一部はシカゴにとどまるものの、2023年には数百人の従業員がフロリダ勤務になる計画だという。
シタデルのマイアミ移転発表の数日前には、キャタピラーがイリノイ州からテキサス州に本社を移すと発表していた。これ以前にも複数のメーカーが、利用できる土地条件や地元の優遇税制、テクノロジーに明るい労働力が得られる場所として、米南西部への移転を決断している。
ボーイングも5月に、本社をシカゴから、首都ワシントンD.C.近郊のバージニア州アーリントンに移す計画を明らかにした。連邦政府規制当局との関係を密にするためだという。
グリフィンは近年、自身と同様に資産家でもあるイリノイ州のJ.B.プリツカー知事(民主党)と対立を深めており、シカゴの犯罪率をめぐって舌戦を繰り広げていた。11月に行われる予定の州知事選挙では、プリツカーの対立候補を支援している。
グリフィンは5月、ブルームバーグとのインタビューで、シカゴの犯罪率の高さを批判し、「このまま事態が変わらないのなら、移転に踏み切る瀬戸際まできている」と述べていた。
グリフィンはこれまで、シカゴ大学犯罪研究所による警備や治安維持に関する訓練プログラムに2500万ドルを寄付していた。
シカゴ市警によると、同市の犯罪率は2022年に入り、前年同期比で34%上昇した。殺人は11%減少しているものの、強盗は21%、不法侵入は31%増加しており、窃盗は65%増と大幅に増えている。
フォーブスのリアルタイム資産トラッカーによると、グリフィンの資産総額は252億ドルに達する。シタデルの広報担当者はフォーブスに対し、グリフィンはシカゴ周辺地区の教育、文化、医療、市民組織にこれまで総額で6億ドルを寄付したと述べた。