どんな仕組みを作れば状況が良くなるのか、その「絵」を見せるだけで、実現するプロセスまでは担わない。そんなイメージを持つ人は多いのではないだろうか。
しかしそれは、必ずしも全てのコンサル会社に当てはまるわけではない。
電通デジタルでDXを推進するITコンサルタントの瀬戸未佑は、「お餅を焼いて、お醤油を塗って、海苔を巻いて、一緒に食べて『美味しいですね』と言い合えるフェーズまで伴走しています」と自信を持って話す。
DXの実現プロセスは複雑であり、関係する業務領域は多岐にわたる。その一方で、一人のコンサルタントがカバーできる範囲は限られているため、DXの構想からスタートして導入効果を実感してもらえる段階まで伴走することは容易ではない。
クライアントに全工程で寄り添うDXは、いかにして可能なのか。絵に描いた餅ではなく「美味しく食べられる餅」をつくる方法を、瀬戸に教えてもらった。
SIerで学び、好きになった「仕組みづくり」を活かせる場所を探した
なるほど、信頼されるコンサルタントとは、彼女のような人のことを言うのだと思った。
周囲を明るくするオープンな雰囲気、相手の求めていることを的確に話す姿勢。彼女がさまざまな関係者の間に立ってプロジェクトを円滑に進めている様子が目に浮かんだ。
新卒時は、「いろんな業界に携われそう」という理由から、大手SIerへ就職した。文系出身のため開発現場ではそれなりに苦しんだが、新規開拓営業の部署に異動すると、思いのほかやりがいを持って働けた。
「そこでは、今までつながりのなかった業界に自社製品を売るための『仕組みづくり』を任されました。その業界の企業と親密なコンサル会社にコンタクトを取ったり、展示会に出展して露出を増やしたりして、ルート開拓のためにできることを試行錯誤する連続でした。
もちろん、すぐには結果に結び付きませんでしたが、やり続けていると、一筋の光が差す瞬間があった。その喜びを知ってからは、地道な苦労も厭わずに乗り越えられました」
入社4年目を迎えた頃には、「自分は仕組みづくりの仕事が好き」という自覚を持つに至った。新規営業はもちろん、クライアントの依頼を形にするSIerとしての仕事も、決して嫌いではなかった。
ところが、SIerで長く働き続けるイメージは今一つ持てなかったという。
「SIerでは勤怠管理システムや決済システムなど、大規模な基幹系システムを主に取り扱っていました。でも私は、もう少し“手触り感”のあるサービスを扱いたかったので、モチベーションを保つのが難しいと感じていたんです。
生活者としての自分が身近に感じられるサービスに携われて、かつSIerで学んだIT知識や『仕組みづくり』のスキルを活かせる場所を考えると、転職先としてデジタルマーケティング業界が候補に挙がりました」
最終的に電通デジタルを選んだ理由は、「会社が大きく成長するフェーズだったこと」。瀬戸が入社した2019年当時の電通デジタルは、創業3年目。将来の大きな変化が予想される環境は、単純に面白そうだと思えた。
その予感は的中する。瀬戸は入社後、生まれたての企業とともに大きな飛躍を遂げることになる。
DX成功への潤滑油は、全社に浸透したフラットなカルチャー
瀬戸が現在所属しているのは、ビジネストランスフォーメーション部門 カスタマーサクセス第1事業部 プロセスデザイングループ。クライアントの企画したサービスの要件定義や、組織・制度に関するソフト面の設計、導入後の改善を担っている。
今、最も注力しているのは、エネルギー大手のクライアントで、エンドユーザーのサービス体験向上のために提供するアプリの開発プロジェクトだ。
瀬戸は、要件定義の段階から本プロジェクトに参画し、関係する他システムとの調整を主とするシステム設計やアプリ拡販のための展開支援を担当した。アプリが情報連携を行なう先のシステム運営企業との細かな調整作業には骨が折れたが、SIer時代の経験を糧に乗り越えてきた。
「システムとしてより良いものである以上に、エンドユーザーにとって一番良い形をチーム全員で追求しました。自分の生活で使うものを作れるのはすごく面白かったですね」
このプロジェクトを通じて、瀬戸はDXを推進する上で大切なことに気が付いたという。
「DXという言葉は、何でもできる魔法のように聞こえるかもしれませんが、実際は『クライアントも含めて誰も正解が分からない中での地道な対話や作業の積み重ね』です。そのために必要な業務は多岐にわたり、その全てに詳しい人は存在しません。
そこでDXを実現するために必要となるのが、クライアントにとってベストなチームを組み、そのチームに所属する“専門家”同士が上手にリレーをすることです。各々が責任を持ってバトンを渡していくことによって、全工程でクライアントに寄り添った支援が初めて可能になるのです」
電通デジタルの社内には、“専門家”たる社員同士でフラットに会話できる文化があるのだと、瀬戸は続ける。
「前職では社内メールを送る時でも、まるでクライアント宛かのように一字一句気を遣っていましたが、今はコミュニケーションツールで誰とでも気軽に連絡が取れます。相談すると『今時間ありますよ』『すぐ話しましょう!』と言ってくれる人がほとんど。役員ですら『いいよ!』とフランクに返事をしてくださった時は、カルチャーの差に驚きました(笑)」
気軽にコミュニケーションを取れる雰囲気が全社に浸透していることが、円滑なリレーの実現に寄与している。そして、そこから生まれる一体感は会社の壁を越えて存在していると、瀬戸は感じている。
「今回のプロジェクトには、電通デジタルの他に国内電通グループから四つの会社が参加していました。各社によって考え方が異なる部分はもちろんありましたが、『エンドユーザーが使い続けてくれるサービスを作ることがクライアントのためにも、エンドユーザーのためにもなる』という方向性は決してブレることがありませんでした。会社は違えど、“オール電通”として向かっている方向は同じだなと実感できたプロジェクトでしたね」
キャリアが、点ではなく「線」になる環境がある
これまでのキャリアを振り返ると、ほぼ全ての経験が今の仕事に生きているように感じると、瀬戸は語った。
SIerでのものづくりとも言える経験は、DXの運用フェーズまで伴走する今、開発者と対等に話ができると言う点でも確実に役立っている。電通デジタルに入社後すぐに担当した自社マーケティングの経験も、クライアントにとって実効性の高いPDCAを回す上で役立っている。
ところが瀬戸は「意図して今のキャリアを築いてきた認識はない」という。
“なんとなく”入ったIT業界で、いつか自分が大手クライアントのDX推進における重要な役割を任されることになるとは、思ってもみなかったのだ。
想像以上のキャリアを歩めているのは、本人が目の前の仕事に常に全力を注いできたからに違いない。しかし、環境の要素も決して小さくはなかったと、瀬戸は実感を込めて言う。
「電通デジタルでは、どの部署の上司も自分の将来について真剣に考えてくれていました。1on1では頻繁に私の考えを整理して『こんなキャリアを目指そうね』と話してくれましたし、忙しい時は気遣いの言葉を掛けてくれたり、必要に応じて稼働の調整をしてくれたりしました。
私が今まで任された仕事で頑張ってこれたのは、そうした環境の影響も大きかったと考えています」
ここには、キャリアが点ではなく「線」になる環境がある。瀬戸は自分の歩いてきた道をそのように振り返った。
今後は貢献できるDXの工程の幅を広げ、クライアントにとってさらに心強いパートナーを目指したいと考えている。現在の瀬戸は、SIer出身者としてシステムに強みを持つ存在だと周囲に認識されているが、今後は興味の幅を柔軟に広げていく「しなやかさ」も大切にしていくつもりだ。
強みを持ちながらも、自分自身がカバーできる範囲を増やしていくことは、“専門家”同士の円滑なリレーの実現にもきっと役立つだろう。
絵に描いた餅ではなく、「一緒に美味しく食べられる餅」を作る。そのためには、“しなやかなプロフェッショナル”同士が協力し合える環境が欠かせない。
瀬戸の生き生きとした表情は、そんな職場で働ける喜びを何より物語っていた。