全14章小説形式で描かれる恋愛物語
美しいオスロの街を駆け抜けるシーンはもちろんのこと、主人公のユリヤを演じているレナーテ・レインスヴェの演技も、この作品の魅力の1つかもしれない。自らの自立をつねに頭に描きながら、2人の男性の間で揺れ動く主人公を、実に表情豊かに体当たりで演じている。
昨年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門では女優賞に輝いたのも宜なるかなという魅力的な演技だ。ヨアキム・トリアー監督もこの作品をつくった動機の1つとして、レナーテの存在を挙げている。
「10年前、彼女は僕の作品で端役を演じてくれた。当時まだ若かったけれど、とても特別なエネルギーを放っていた。その後、彼女は多くの役柄を演じてきたけれど、主役は一度もなかった。それで彼女を主人公にして脚本を描くことにしたんだ」
つまり「わたしは最悪。」のユリヤは、レナーテの「当て書き」でもあったのだ。主人公の造形には多くの面で実際のレナーテのキャラクターが生かされているとトリアー監督は語る。
「ユリヤの複雑な心情を描いていくうえで、レナーテに助けられたことはたくさんあった。彼女は大胆で勇敢で、自分の不完全なところも平気で見せることができる。虚栄心もなく、明るさと深みのバランスが独特で、コメディもシリアスなドラマも演じられる素晴らしい才能を持っている」
(C)2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA
トリアー監督は、このレナーテにインスパイアされた物語を、序章と終章の他に12のエピソードに章分けして描いている。例えば、ユリヤとアクセルが一緒に棲み始める序章に続いて、各章が次のように続いていく。
「第1章 ほかの人々」→「第2章 浮気」→「第3章 #MeToo時代のオーラルセックス」→「第4章 私たちの家族」→「第5章 バッドタイミング」→「第6章 フィンマルクの高山」。観賞する際の興味を削がないために前半だけに留めておくが、このように小説のような章形式で各エピソードが描かれていく。