情報溢れるSNS時代のビターな恋愛を描く ノルウェー映画「わたしは最悪。」

映画「わたしは最悪。」7月1日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー (C)2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VÄST - SNOWGLOBE - B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA


前述のユリヤはアクセルと一緒に住むようになるが、子どもをつくることについては、意見が対立する。40代であるアクセルは、周囲の人たちの幸せな家庭生活を目の当たりにして、年齢のこともあり、子どもを熱望する。しかし、まだ何者にもなっていないと日頃から感じているユリヤは、自らの可能性を試したく、子どもは早いと考えている。

HEWORST PERSON IN THE WORLD
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2人の間にできた溝は、思わぬ方向へと発展していく。有名人であるアクセルにばかり声がかかるイベント会場から、1人抜け出して家路についたユリヤは、途中で招待もされていないパーティに紛れ込む。誰1人知り合いもいないなか、彼女は恋人がいるという同年代の男性(ハーバート・ノードラム)と出会い、セクシャルで危うい会話で盛り上がる。

互いにパートナーを持つ2人だったが、「どこまでが浮気になるのか」という質問をきっかけに、次第に親密さを増していく。パーティを抜け出して夜明けまで一緒に過ごした2人だったが、自分の名前を名乗る彼を制して、ユリヤは「言わないで、SNSで検索しちゃう」ときっぱり断り、2人は街角で別れる。

後日、アルバイト先の書店で働いているユリヤのところに、1人の女性が本を探してほしいと声をかけてくる。ユリヤが「在庫がない」と応対していると、そこに先日の男性アイヴィンが現れる。本を探していた女性は彼の恋人だったのだ。この再会の場面、なかなか心にくい設定だ。

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いったんはパートナーとなにごともなかったかのように店を出たアイヴィンだったが、サングラスを忘れたという口実をつけて店に戻ってくる。「ずっと君のことを考えていた」と告白して、自分の働いているベーカリーの名前をユリヤに教えるのだった。

結局、ユリヤは一緒に住むアクセルとの心のすれ違いから、アイヴィンとの新たな恋へと向かうのだが、そのことを決断するときの場面が印象深い。

ユリヤのファンタジーとして描かれているが、周囲の人間の時間がすべてストップするなか、ユリヤがただ1人オスロの街のなかを駆け抜ける。ベーカリーで働くアイヴィンに会い、2人だけが動いている世界で愛を確かめ合うのだ。後年、映画史に残るかもしれないエクセレントなシーンだ。
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文=稲垣伸寿

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