新型コロナのSタンパク質が後遺症治療のバイオマーカーになる可能性

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症の生存者の10〜30%は、感染から回復した後に後遺症「ロングコビッド」との闘いに直面する。PASCまたはPCCと呼ばれる後遺症では、新型コロナの急性期の後にさまざまな症状が現れる。これらの症状は疲労、胸痛、下痢など多岐にわたり、そのメカニズムはよくわかっていない。

現在のところ、ロングコビッドを他の病気と区別するための臨床検査はない。また、新型コロナが軽症または無症状であった数カ月後にロングコビッドを発症することもあるため、新型コロナの初感染さえ確認できない可能性がある。このため、医師も患者もどうしたらよいのか途方に暮れてしまう。

そこで、信頼性の高いロングコビッドバイオマーカーの開発が急務となる。バイオマーカーとは、ある状態や病気を測定できる指標であり、この複雑な病状を取り巻く謎の多くを取り除くことができる。

診断を確定することができれば、ロングコビッドの疑いがある人々や、正確で有用な患者ケアを提供しようとする医療専門家が切望していることが明らかになる。また、そのメカニズムが解明されれば、潜在的な治療戦略も評価しやすくなる。

新たなバイオマーカー研究


米ハーバード大学などと連携しているウォルト研究室の研究者ゾーイ・スワンクらは、査読前の学術論文「Persistent circulating SARS-CoV-2 spike is associated with post-acute COVID-19 sequelae」で、ロングコビッドを特定するためのバイオマーカーの可能性について論じている。

研究者らは、新型コロナと確定診断された患者のうち、PASCと診断された37人と診断されなかった26人から血液サンプルを採取。ウォルト研究室で開発された超高感度単一分子試験(SIMOA)を用いて、血漿中の新型コロナ抗原の濃度を分析した。SIMOAでは、スパイク全体(S)、スパイクのS1サブユニット、ヌクレオキャプシド(N)を通常のELISA法よりも約1000倍の高感度で検出することができた。

研究の結果、3つの抗原のうち、スパイク全体の新型コロナウイルススパイク抗原が最も優れたバイオマーカー候補であるとされた。スパイク全体(Sタンパク質)はPASC患者の60%で検出され、その多くは数カ月にわたってスパイクレベルが持続していることが示された。
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翻訳=溝口慈子

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