熱燗を飲んで完成する料理
燗酒の魅力や奥深さを追求し続けている高崎は、「料理とお酒のカテゴリーを取りたい。料理もお酒もボーダレスで、もっと自由でいい」と言う。
そんな高崎が提供する熱燗は、時に料理の具材になる。
米、焙煎した麹、「カカオハスク」と呼ばれるカカオ豆の皮、ホップを原料に、黒ビールをイメージして作られたという福島県南相馬市「haccoba」の酒「おこめとカカオのスタウト」は、褐色で燗につけると見た目はまるで紹興酒。飲むと、どこか椎茸のような味も感じられる。
haccoba「おこめとカカオのスタウト」の熱燗×シウマイ
合わせる料理は、カツオ出汁に浸かった、豆腐と金目鯛が入ったシウマイ。これに萱草(かんぞう)という野草の醤油漬けを添えて食べてから、この熱燗を飲む。すると、熱燗がシウマイの旨みを押し上げてくれる。
「シウマイには椎茸を入れたりしますよね。燗につけるとお酒から椎茸のような味噌のような味わいが感じられるので、椎茸がお酒に入っているという考え方で合わせています」と高崎。椎茸を使わずとも椎茸の役割を熱燗が担っているというわけだ。
そして、熱燗は時に調味料にもなる。
「酒母の量を通常よりも増やして造られている」(高崎)という栃木県宇都宮市「井上清吉商店」の「澤姫 試験醸造 純米酒GOLD」は、飴色で古酒のような香り。
この熱燗に合わせるのは、片面をタタキにして塩をふり、刻んだ萱草(かんぞう)をのせたカツオの串焼き。カツオを食べてから熱燗を飲むと、熱燗がまるで醤油のように感じられる。食べるほどに飲むほどに、料理とお酒の境目はなくなっていく。
井上清吉商店「澤姫 試験醸造 純米酒GOLD」の熱燗×カツオの串焼き
ごはんを食べるようにお燗を飲む
「お燗は料理」と言うのは、東京都渋谷区の飲食店「GEM by moto」店主の千葉麻里絵。燗につける日本酒や温度の上げ方などで、日本酒は味わいをチューニングできるからだ。
そして、千葉が「お燗はお酒と料理の接着剤」とも表現するように、お燗にすることで日本酒に輪郭のはっきりとしたジューシーな酸味が出たり、ビスケットのような穀物感が出たりと、フックになる味わいが生まれ、日本酒と料理が絶妙にマッチする。
燗酒と料理の味や風味がぴたっと合う千葉のペアリングを体感すると、もちろん日本酒にもよるが、日本酒はお燗によって完成すると言っても過言ではないのでは…と思えてくる。
今年6月、千葉がプロデュースした福島県会津若松市「宮泉銘醸」の「dot SAKE project.VOL.5写楽」がリリースされた。使っているのは、福島県産の酒造好適米「夢の香」で、精米歩合90%の低精白。
「60度に温めるとお米の炊きたて感と膨らみが出ておいしい」と千葉。
試してみると、炊きたてごはんのような風味とホクホク感があり、日本酒の原料はお米であるという、当たり前といえば当たり前であることを、強烈に実感した。
燗酒を飲むとホッとするのは、単に温かいという理由だけでなく、お米でできた日本酒に火を入れて燗をつけることが、温度帯は違えども、どこかお米に火を入れてご飯を炊くことにつながるからなのか。
ごはんは炊き方で味わいが変わるように、日本酒は燗のつけ方で味わいが変わり、おいしいごはんは冷めてもおいしいように、おいしい燗酒は冷めてもおいしい。炊飯とお燗はどこか似ている。ごはんを炊くように、ごはんを食べるように、季節を問わずにお燗を日常的に気軽に楽しんでみてはどうだろう。