そう思っていたが、先日、一年通して料理と熱燗を“1品1酒”のコースで提供している飲食店に出会った。「高崎のおかん」(東京都目黒区)と、店名からしてお燗一本。とは言え、暑い夏は客足が遠のいたりしないのだろうか? そんな疑問を店主の高崎丈に投げかけてみると、「夏こそ、お燗ですよ」と返ってきた。
「こたつに入ってアイスクリームを食べるって贅沢ですよね。夏は意外と他の季節よりも冷房で身体が冷えることが多い季節だからこそ、熱燗を飲んで体内から身体を温めるということが、実はすごく贅沢なんです」。
たしかに、冬にもキンキンに冷えた日本酒やビールが飲まれていることを思うと、「夏の熱燗」があってもいい。
お酒の温度と香りで燗のつけ具合を図る店主の高崎丈
高崎は燗酒の魅力について、「口の中では30〜40度が一番おいしさを感じると言われています。この温度の世界を日本酒で表現するのはお燗しかできません」と話す。
「熱燗を飲んだ海外のお客さまの反応は『Amazing!』でした。海外にはお酒を温めて飲む文化はほとんどなく、料理に合わせてお酒を飲むペアリングにはワイン以外のセオリーがない。鮨とかラーメンとか、日本のカルチャーは海外への浸透が早く、日本人よりも海外の人のほうが感動してくれるし評価してくれる。そこを逆に日本人が評価するという流れがあり、お燗という温度の世界には日本でも海外でも可能性があるなと感じています」(高崎)
“口内レモンサワー”という愉しみ
実際に高崎のおかんで、夏らしさを感じる熱燗を飲ませてもらった。
焼酎と炭酸水とレモンで作るレモンサワーは、爽やかなレモンの香りとシュワっとした爽快感が、暑い夏にぴったり。高崎はこれを、福島県郡山市「仁井田本家」の日本酒「しぜんしゅめろん3.33」の熱燗で再現した。その名も「口内レモンサワー」。
仁井田本家「しぜんしゅ3.33」の燗酒と炭酸水で作る“口内レモンサワー”
レモンピールを入れてお燗したという「しぜんしゅめろん3.33」を飲んでみると、レモン味のラムネのような香り、レモンの風味、やわらかみのある甘さが感じられる。そして、熱燗と一緒に提供されたのは、氷入りの冷たい炭酸水。熱燗を飲んでから炭酸水を飲むと、口の中で熱燗が爽やかなレモンサワーになるという趣向だ。
「もともと日本酒は熱燗でしか飲まれていなかった。冷酒はここ最近の飲み方なんですよ」と高崎。
現在は日本酒を冷酒で提供している店が多いが、江戸時代は一年を通して熱燗を飲むのが主流だったらしい。多くの日本人が熱い味噌汁を一年中飲んでいることを考えても、たしかに「熱燗は寒い季節に飲むもの」と決めつけてしまうのはなんだかもったいない。