世界、日本で広がる新潮流!教養としての新しいフィランソロピー入門

llustration by Michal Bednarski

ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、ジョージ・ソロス…… 世界、日本で広がる新潮流! 教養としての「新しいフィランソロピー」入門

世界的に起きている、起業家や投資家による「新しいフィランソロピー」の動き。事例を通して多様な資金提供でインパクトを重視する新しい流れを見ていこう。


かねてフィランソロピーは「意志のあるお金」として、共助とイノベーションを促進してきた。革新的な社会モデルを提示し、社会実装することでソーシャル・イノベーションを推進する「新しい社会をつくる」動きを生んできた。アメリカの助成セクターでは「フィランソロピー資金は社会の新たなアイデア、手法、プログラムに資金を提供し、これを推進するために使用すべきである」という考え方が定着し、「フィランソロピーは、アメリカ社会の加速ギアである」ともいわれている。

そのフィランソロピーに革新的な動きが生まれている。マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ、メタCEOのマーク・ザッカーバーグ、投資家のジョージ・ソロスたちに代表される「新しいフィランソロピー」だ。寄付にとどまらず、経済的リターンと社会的・環境的な効果を同時に生み出すことを意図するインパクト投資など投資を組み入れた多様な資金提供を用いて、社会的インパクトの創出にこだわる流れが世界的な広がりを見せている。

起業家ならではの革新的手法


その代表的な事例としてあげられるのが、チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(CZI)だ。メタCEOのマーク・ザッカーバーグと妻プリシラ・チャンが設立し、夫婦が保有する同社株の99%を生涯にわたって慈善活動に寄付することを発表。当時の評価額で約450億ドル(約5兆5000億円)となる。彼らが革新的なのは、「自らの意志を実現する最適なスキームで、起業家ならではの視点で慈善活動にコミットする」点だ。従来の寄付の仕組みや成果に疑問をもち、より本質的で効果的な社会貢献活動を模索している。インパクト投資と寄付により、インパクトへのこだわりをもちながら行う、「新しいフィランソロピー」のモデルケースといえる。

彼らの特徴は、自らで設立したLLC(有限責任会社)を活用する点だ。通常、富裕層は、財団を設立し資産を移すのが一般的だ。慈善活動に対する支出が義務付けられるかわりに、各種税金が免除されるためだ。だが、財団に名義を移す以上、自分の資産でなくなり、自身や子どもは、運営メンバーというかたちで間接的にしか資産にかかわれない。LLCは節税メリットはないが、投資における制限や情報開示の義務など、財団を用いた寄付で課される制約は受けず、スタートアップへの投資や、ロビイングなどの政治的活動を自らの意志で自由に行うことができる。

この背景には、ザッカーバーグの過去の学校への寄付での失敗経験がある。単にお金を配るだけの寄付は意味をもたず、起業家が企業経営の視点で強くコミットする必要があると考えている。CZIの従業員の500人の半分以上がエンジニアであることも、組織の可能性を感じる。

CZIは「すべての人にとって、より包括的で公正かつ健全な未来を築くこと」と「健康、教育、科学研究、エネルギーなどの分野で人間の可能性を高め、平等を促進すること」をミッションに、広範囲に精力的な活動を展開している。
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文=藤田淑子、小柴優

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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