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2022.07.02

障がい者雇用から学ぶ、多様性をいかす組織の作り方

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二つ目の「行動に徹底して着目する」というのは、問題行動とそうでない行動を明確に定義し、当事者の行動を定量的に計り評価や改善の材料にすることを指します。

サテライトオフィスの設置にあたっては、これら二つの要素を踏まえて業務を設計しました。

具体的には、聴覚過敏などの症状に配慮して騒音が少なくリラックスして働ける就労環境を整え、専任のスーパーバイザーやジョブコーチを置くなど支援体制を構築。その上で業務単位ごとに作業時間を測定するツールを使い、作業時間や入力回数、ミスの数などのデータを取得できるようにしました。

無事に仕事を完遂したら業務の難易度や精度、スピードに応じたポイントを付与するなど、ゲーム要素も採り入れました。

さらに無益なマイクロマネジメントを排し「遅刻しない」「人の話を遮らない」など、守るべき最低限のルールを定め、それ以外は問わないシンプルで明快なマネジメントスタイルを徹底しています。

成長を促す行動の計測とポイント付与の設計


成長を促すポイント
作成:アクセンチュア

サテライトオフィスの開設から数カ月は、仕事に集中できないメンバーやミスの多いメンバーも散見されましたが、当事者のストレスを抑制し、能力や特性に応じた業務を任せられるようになった結果、まもなく業務の質やスピードが安定。メンバーの満足度も高まり、少しでも難易度の高い業務に挑戦しようと意欲的に振る舞うメンバーの姿も珍しくなくなりました。
 

「朝の挨拶」は本当に必要なのか?


サテライトオフィスの運営を通じて、私たちは多様性のある組織をマネジメントする上で大事なポイントを学びました。

それは、形だけの平等を繕う「悪平等」をやめ、メンバー一人ひとりのモチベーションを高める要因、逆にやる気を失わせる要因を知り対処することの大切さです。

一つ例を挙げましょう。日々オフィスで交わされる挨拶は、人間関係を円滑にしたり、社内の雰囲気をより良くしたりする効果が見込めます。

大半の方は、組織で働く以上率先して行うべきであり、一般常識に属する行動と思われているはずです。

しかし、精神障がいや発達障がいを抱える方には、朝の挨拶のようなごく日常的なコミュニケーションを苦手とする方が一定数いらっしゃいます。そんな特性を持つ人たちに、管理者が形式張った挨拶を強要したり、挨拶しなかったことを叱責したりすれば、確実に仕事へのモチベーションを下げ、会社へのロイヤリティは急速に失われていきます。最悪の場合、離職につながるかもしれません。

常識や先入観をいったん脇に置いて冷静に考えれば、「挨拶の有無」が事務作業の処理スピードや作業の正確性に影響を与えることはまずありませんし、仮に影響があったとしてもその度合いはかなり限定的でしょう。

成果とひと口に言っても、何を重要すべきかはチームによって異なります。立場や特性が異なれば、物事への感じ方や捉え方が変わって当然ですし、得意なことや苦手なことは人によって違って当たり前。それは健常者も障がい者も変わりません。はじめから自明なことなどないのです。
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文=中村健太郎(アクセンチュア)

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