ファッションの自給は広がるか 岐阜の集落で「民衣」再生に挑む

石徹白に伝わってきた農作業用ズボン「たつけ」の貴重な原型

ファッションの枕詞に「サステナブル」が付くようになって早数年。次々登場する新素材・新機能のファッションアイテムが、課題解決に結びついている実感はない。それは、環境負荷の主な原因として挙げられる、長く複雑なサプライチェーンが改善されないからだろう。

それならいっそ、サプライチェーンをなくしてしまえばすべて解決するのではないか。すぐ手の届くところにあるその土地由来の素材で、自ら服を製作する方法はないか。

そんな夢物語を思い描いていた中で出会ったのが、「石徹白洋品店」だった。

地域の歴史に学び、再生する


岐阜県郡上市にある、人口250人ほどの小さな集落「石徹白(いとしろ)」に店を構える石徹白洋品店は、今年で創業10年目になる。

標高700mの山間地に位置し、ここへ向かうバスは日に数えるほどしか運行していない。さらに半年間のみの営業で、予約制という難易度の高さながら、訪れる人はひきも切らない。

そこに並ぶのは、古来より伝わる直線裁断の和服を現代に合わせてリデザインした、爽やかで風通しの良い服たちだ。


地域に受け継がれてきた和服がベースになっているシャツとパンツは、シンプルかつベーシックなデザインで着こなしやすい(シャツ2万2000円、パンツ3万3000円〜)

店主の平野馨生里氏は岐阜出身。上京、国際協力を経て、あらためて故郷に目を向けるようになり、水力発電のプロジェクトをきっかけに石徹白に移住。石徹白洋品店のはじまりは、そんな平野氏と、農作業用のズボン「たつけ」との出会いだった。

「私はもともと文化人類学を学んでいたこともあって、お年寄りの話を聞くのが好きだったんです。この土地で生まれ育った方々に話を聞く中で、“たつけ”という農作業用のズボンの存在を知りました。試しに作ってみると、直線裁断・直線縫いで組み立てられていて、ものすごく効率的で無駄がなく、形も美しい。これを広く伝えていきたいと思い、現代のサイズ感に合わせてデザインし、販売するようになりました」


「たつけ」は、直線裁断・直線縫いで布の無駄がなく、環境負荷を最小限にすることができる。

当初は国内外から仕入れた化学染料で染められた布を中心に作っていたものの、その環境負荷や過酷な生産背景を知り、できる限り国内で織られた生地を使い、自分たちの土地で育てた原料も使うようになった。

「染料は、藍に加え、杉の葉っぱやヒメジオン、胡桃など、周辺からとれた植物をつかって、一つひとつ手作業で染めています。同じ植物でも、季節によって微妙に色が変わるのが面白いですね」
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文=佐藤祥子

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