中国政府による抑圧的な行動は、これだけではない。もっとも直近の例では、同国政府は、比較的軽微な外交問題をめぐって、米国や他国へのレアアース原料の契約で定められた出荷を停止することをちらつかせた。中国は数年前に、日本に対しても同様の姿勢を示した。
中国政府は以前から、一時的な問題を受けて、貿易政策を唐突に変更することがあった。このような恣意的な決定は、貿易相手に甚大な損害をもたらしてきた。例えば中国政府は、オーストラリア政府が新型コロナウイルスの起源に関する質問をしたことに反発し、同国商品の関税を大幅に引き上げた。
こうした懲罰的政策は、短期間で撤回されることが多いが、常にそうとは限らない。たとえ損害が短期的であっても、各社が中国との関係維持に消極的になるのは当然だ。
そして、何よりも決定的なのが、中国における生産コストの上昇だ。外国企業にとって、中国の最大の魅力のひとつは、勤勉で安価な労働力へのアクセスだった。しかし近年、中国の賃金上昇は、世界のほとんどの国を上回るペースで進んでいる。2011年から2021年にかけての中国の賃金上昇率は年間10.5%で、米国、欧州、日本の2倍以上であり、ほとんどのアジアの他国よりも急速だ。
もちろん、欧米や日本の労働コストは依然として中国を上回るが、その差は以前ほど大きなものではなくなってきており、また急速に縮まってきている。さらに、アジアの他国と比べると、中国はすでに「低コスト」という強みをおおむね失った。ベトナムはかなり前から、安価な靴やテキスタイルの世界屈指の生産地として、中国のシェアを奪い続けている。
パンデミックにより、中国の賃金上昇は鈍化したが、その効果は一時的だ。一方で、ロックダウンにより、生産と輸送のコストは上昇した。
事態はまだ、欧米や日本の企業が、中国との既存の関係を断ち切るところまでは進んでいない。しかし、調査結果が明白に示す通り、こうした現状を受けて、外国企業各社は、中国以外の新たな投資先への転換をはかっている。
ただし先述したように、これらの企業はまだ、中国との既存の関係を断ち切るところまでは進んでいないため、中国はその地位を安定化させるだろうという見通しがあるようにも見える。そうした考えは、中国政府を安心させるものかもしれない。しかし、そうした結論はビジネスの本質を見誤っている。
どんなビジネスであれ、その焦点は常に、新たな投資先を追うものだ。中国からの大量撤退が起こらないとしても、本記事で解説したトレンドは、やがて世界の貿易とビジネスにおける中国の影響力を弱める方向で働くだろう。