米国の医療従事者に広がるバーンアウト危機、解決の鍵は規制緩和

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米公衆衛生局士官部隊の医務総監(The surgeon general)を務めるヴィヴェク・マーシーは2022年5月、米国の医療従事者のあいだで、燃え尽き症候群(バーンアウト)の危機が起きていると警鐘を鳴らした。

2022年5月23日に発表されたこの報告書には、この危機についての詳細のほか、州政府や連邦政府の政策立案者への提案として、対応策を多数リストアップした一覧が記されている。

しかし残念ながら、何よりも効果的でありながら、報告書ではあまり重視されていない解決策がある。それは、医師や看護師、医療機関を悩ます、複雑で無益な規制を緩和することだ。

米メイヨー・クリニックの定義によると、仕事におけるバーンアウトとは、「仕事に起因する特別な種類のストレス」であり、「身体的また精神的な極度の疲労を招き、達成感の減退や、個人のアイデンティティが失われる感覚を伴う」状態だ。

このバーンアウトが、医療従事者のあいだで蔓延している。マーシー医務総監は報告のなかで、全米医学アカデミーの研究に触れながら、54%もの看護師と医師、60%もの医学生と研修医(レジデント)がバーンアウトの症状を訴えていると述べた。

誤解のないように言うと、マーシー医務総監の報告書は、バーンアウト危機のひとつの原因として、管理業務の負担を挙げている。ただ、検討が十分になされずに導入された規制が、この問題にどう関与しているのかについては、あまり言及されていない。しかしそれこそが、バーンアウト危機を招いた唯一最大の原因である可能性がある。

全米医師財団が後援した2018年の調査によると、医師として働くうえで最も満足度が低い仕事のひとつは、規制に伴う責務だと回答した医師は40%にのぼった。同年の別の調査では、過剰規制に伴う好ましくない問題の典型である事務仕事が、医療活動が行き詰まる最大要因だと回答した医師は79%にのぼった。

医師たちは、膨大な時間を「間接的な患者対応」に費やしている。わかりやすく言えば「書類仕事」だ。米医学誌「JAMAインターナル・メディシン(JAMA Internal Medicine)」が2019年に発表した研究によると、研修医が研修1年目に、患者の診療記録や研修報告書の作成に費やす時間は週10時間以上に上っている。

医療行為を厳しく規制している州が多数あることも、忘れてはならない。そうした州では、ナース・プラクティショナー(NP:上級看護職)と医療助手(PA)が、ごく普通の日常的なケアであっても、医師の監督下でなければできない場合がある。患者を対象にした複数の調査では、ナース・プラクティショナーや医療助手によるこうしたケアの臨床的転帰が、医師によるケアと同等かそれ以上だと報告されているにもかかわらずだ。

幸い、26の州とワシントンD.C.では現在、ナース・プラクティショナーと医療助手が、医師の監督なしで一部の医療行為を独立して行うことを認めている。

医師以外の医療行為を禁じる規制が、医師の仕事量を増やし、看護師や医療助手の士気をくじいている。しかも、そのせいで医療業界を離れてしまう人がいるかもしれない。医療従事者向けSNS「Doximity」が2021年12月に行った調査によると、過重労働を理由に早期退職を考えている医師は22%にのぼる。別の業界への転職を検討している医師も12%いる。

こうしたバーンアウト危機が深刻さを増していけば、さらに多くの医療従事者が辞めていくだろう。そうなれば、残された従事者たちが、いまよりもさらに自らを酷使して働かなければならなくなる。やがては負のフィードバックループが生まれ、疲弊する医療従事者や、早期退職する医師が増えていくことになるだろう。

全米医科大学協会(AAMC)の推定によると、米国では2034年に12万4000人もの医師が不足する。看護師不足はすでに深刻で、2021年冬に「危機的な看護師不足」があったと報告した医療機関は6件中1件を超えている。一部の州では、病院スタッフを補充するために、州兵に支援を要請せざるを得なかった。

規制はもともと、人々の安全を保つことを意図して導入された。にもかかわらず、実際にはバーンアウトを助長して患者を危険にさらすという、皮肉な結果が生まれている。バーンアウトの症状を訴える医師は、医療ミスを犯す確率が2.2倍も高くなるのだ。

規制に関する業務や管理業務があまりにも多いせいで、医師や医療関係者は煩雑な仕事を抱え、必要以上のストレスを感じ、疲労困憊している。医療現場にのしかかる規制の負担を軽減させてバーンアウトを防止することは、患者にとって文字どおり、生きるか死ぬかの問題なのだ。

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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