経済・社会

2022.06.28 07:15

原潜討論が求める、55年体制からの脱皮

Tsuguliev / Shutterstock.com


この議論を聞いていた自衛隊元幹部は「日頃、安全保障を考えていない人たちなんだなあ、と思いました」と語る。「戦略が戦術を語る前に、ディーゼル車がいいのか、電気自動車がいいのかと議論しても意味がないでしょう」
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原子力潜水艦がその力を最大限発揮するのは、核ミサイルを搭載している戦略原潜のケースだ。核ミサイルをいつ、どこで発射するのかわからない状況をつくりだすことは、相手の核攻撃を抑止する最大の力になる。でも、日本は非核3原則を堅持している。岸田文雄外相は、核の共有についても議論する考えがないことを明らかにしている。日本が今、戦略原潜を保有する選択肢はない。

では、世間で今、議論になっている反撃力のプラットフォームにはなるのだろうか。海自の潜水艦も魚雷のほか、ハープーン対艦ミサイルを装備している。しかし、敵の攻撃基地を狙うためには物足りない。ハープーンを「自殺兵器」と呼ぶ関係者もいるからだ。潜水艦は隠密性が最大の武器だ。ハープーンを発射すれば、自分がどこにいるかを相手に教えることになる。

この弱点は、核を搭載しない巡航ミサイルなどを備えた攻撃型原潜になれば解消するのだろうか。確かに通常型の潜水艦の場合、水中速度は20ノット(時速約37キロ)とされる。ただ、バッテリーの消費を考えるため、通常速度は6~8ノット(時速約11~15キロ)とされる。これが原潜であれば、30ノット(約56キロ)は出る。しかも、原子炉だから半永久的に速度を維持できるという利点がある。ただ、それは潜水艦同士を比べた話に過ぎない。時速数百キロで移動する航空機からみれば、通常型潜水艦であろうと、原潜であろうと、停まっているように見えるだろう。自衛隊元幹部は「反撃力を考えるなら、潜水艦は全く意味がありません。爆撃機を使うべきでしょう」と語る。
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一方、共産党の志位和夫委員長は、原潜の保有に反対論を唱え、ロシアの蛮行に乗じて大軍拡の大合唱が起こっているが、軍拡で平和が守れるか」と語った。ただ、原潜なら軍拡で、海自が保有している通常型潜水艦なら軍拡ではないと言い切れるだろうか。

海自の潜水艦は魚雷を装備している。この魚雷は侮れない。米軍の最高機密のひとつに、各艦艇がどれだけの攻撃に耐えられるのか、という能力がある。空母の場合、対艦ミサイル20発くらいまで耐えられるとされる。しかし、魚雷であれば、1~2発で沈没するという。。魚雷が敵艦に命中しなくても、水中で爆発した衝撃波(バブル・パルス)によって船体を持ち上げ、その自重を使ってへし折ってしまう力があるからだという。

19日の議論は、政治家たちが安全保障について、常日頃考えていないという事実を明らかにしたという点で、意味があったのかもしれない。

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文=牧野愛博

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