世界一周の旅の予定は最初の国で大変更に
「25歳の頃でした。それまで普通に生活を送れていたのに、あるとき突然歩けなくなってしまったんです。
未来が見えなくなってしまう経験はとても恐怖でしたし、先送りの人生は後悔するのではないかと感じるようになりました」。
そして今を大切に好きなことをやろうと決め、気の向くままの世界一周の旅へ。
それまでの人生と決別し最初に訪れたのがニュージーランド。寝たきり生活が改善したあとにリハビリを兼ねて山歩きを始めたこともあり、「山に登れるところがいいな」という思いから向かったのだった。
出発は’13年。最初の3カ月はオークランドで語学学校に通い、そののちに同国をぐるりと巡った。
オークランドに戻って日本食のレストランで働きながら数カ月滞在。そして南へ行こうと思い立ち、向かったカイコウラで転機が待っていた。
「野菜の収穫の仕事を見つけて4カ月ほどいたんですが、最寄りのスーパーマーケットまで50キロメートルという何もない場所だったんです。
海と畑が視界いっぱいに広がるところでブロッコリーとレタスをひたすら収穫していましたね。
生まれ育った東京は自宅から1分もしないところにコンビニエンスストアがあるし、田舎暮らしには退屈とか不便とかネガティブなイメージしかなかったのですが、現地で過ごしていると、何もないって豊かだなと思うようになりました。
自分を見つめ直したり、仕事のあとに仲間と会話をしながら過ごす時間が楽しくて。そのような日々を過ごしたことはなかったし、心の安らぎを感じたんですよね」。
結果、滞在は1年4カ月に及んだ。勝ち続けなくてはいけない東京での暮らしで根付いていたある種の強迫観念から解放され、世の中の広さと生き方の多様性に遭遇した瞬間だった。
ニュージーランド的な幸福を体現できる場をつくりたい
コロナ禍のために現在は帰国中だが、5月からニュージーランドの国境は再開予定。移住も視野に入れ再び動き出すのだろうか?
「実は今、村づくりに興味が出てきたんです。住み慣れた日本に、自分たちが“ここに住みたい”という場所、環境をつくりたいと感じているんです。
これまではニュージーランドで感じた素晴らしさをひとりで伝えていたのですが、これからはイベントなどで出会えた仲間と一緒に“場”をつくっていきたいんです」。
ニュージーランドの人たちは、自分の好きなことを軸に生きている。サーフィンが好きなのであれば、まずはコーストラインの近くに住む。そして、そこでできる仕事を探す。
シンプルな生き方は健全な心身を育み、だからトミマツさんは、同じような状況を日本につくり出したいのだという。
それは「ニュージーランドはいいな」と思いを寄せるだけの状況から脱却し、思いを具現化するステージへ踏み出したことを意味する。そうして生き方や幸福のカタチの多様性を、これからも提案していきたいと考えている。
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(この記事はOceansから転記しております。)