2022年に入っても、事態は改善していない。ウクライナでは、首都キーウや東部のマリウポリ、南部のムィコラーイウなどの広範囲で、ロシア軍兵士がCRSVを働いたと非難されている。国連人権高等弁務官事務所には、2022年6月3日までに、ウクライナでのCRSV被害が124件、通報されている。
ウクライナ政府によると、ユニセフと共同で開設した精神的支援を行うホットラインには、2022年4月末現在で、ロシア兵からCRSVを受けたという申し立てが約400件寄せられているという。こうした報告は、今後も次々と明るみになるだろう。
紛争に関連した性的暴力が、集団の安全保障に対する独立した脅威とされているのに、他の集団安全保障の脅威に直面した場合と同様の対応が行われていないのはなぜなのだろうか。こうした思いを胸にコンゴ民主共和国で以前から活動を続け、2018年にノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師は、「レッドライン・イニシアティブ(Red Line Initiative)」という新たな取り組みを発表している。
その目的は、紛争下で性的暴力を働いてはならないという、厳しい一線(red line)を引くことだ。そのため、法的拘束力のある国際協定を取り決めることを目指している。「戦争において性的暴力が武器として使われた場合には、それを倫理的に断固として認めず、国際社会による激しい抗議を喚起すること。各国が国際協定に従って、より強固かつ速やかに対応にあたること。不適切な行動があった場合に、個人だけでなく政府も対価を支払う責任を負うという法的義務を明確にすること」を可能にしたい考えだ。
集団の安全保障を脅かすCRSVには、包括的な対応が求められる。諸国家ならびに国際社会は、ムクウェゲ医師によるこの重要な取り組みに参加し、CRSVを根絶しなければならない。