ビジネス

2022.06.27

ケニアで新「頼母子講」貧困解決への新しい仕組み

Alphajiri CEO 薬師川智子

日本から遠く離れたケニアで、農業改革を通じ社会課題解決に取り組む女性がいる。Alphajiri(アルファジリ)のCEO、薬師川智子だ。

ケニアは人口の約4割が農業従事者で、うち約8割が1ha未満の小規模農家だ(2018年時点)。薬師川が目指すのは、農作物の生産から販売まで手がけることで貧困小規模農家の収入を上げ、ケニアの貧困や食料問題を解決することだ。

大学卒業後、農林中央金庫を経て青年海外協力隊に参加。ケニア・ミゴリ郡で大豆農業に従事した経験を基に16年に起業し、大豆の契約栽培や家畜飼料メーカーなどへの卸売事業に着手した。併せて取り組んだのが、貧困農家の自助グループ「アルファチャマ」の組成だ。

まず、農業従事者を約15人ずつのグループに分ける。各メンバーは毎週集会に少額の現金を持ち寄り、話し合いを経てグループ内で必要とする人に貸し付ける。借りた人は10%の金利を上乗せしグループ内に返済する。日本の伝統的な無尽や頼母子講に似た仕組みで金融リテラシーを上げ、責任感や助け合いの精神を醸成する。会員は作物栽培のトレーニングやローンの提供なども受けることができる。22年2月にはアルファチャマの数は39。会員数は600人にのぼる。

新型コロナウイルス感染拡大で農作物の卸売先の飲食店が軒並み営業を停止。20年4月の売り上げは前月比82.2%減だが、薬師川は逆境を小売事業参入の好機ととらえ6月にはナイロビに有機農産物の小売店を開業。その3カ月後にはキムチや味噌など、貧困農家が生産した農産物を使った加工食品の製造・販売を開始した。

これらの商品は高所得者層を中心に人気を集め、業績は改善。オンライン販売する商品のデリバリーサービスも開始し、数カ月内には会社全体の黒字化を見込む。

「年内にはナイロビ近郊に自社農園を開設したい。そこで得た技術を貧困農家に転用し、農家の平均月収を約3000円から1万5000円以上にしたいです」


やくしがわ・ともこ◎奈良県生まれ。テキサス大学アーリントン校を卒業後、農林中央金庫へ入庫。2014年より青年海外協力隊員としてケニア・ミゴリ郡へ赴任し、大豆農家組合で大豆栽培や加工の普及に従事する。16年にAlphajiriを起業し、17年にボーダレス・ジャパンに参画。趣味は油画。

文=瀬戸久美子 写真=エリック・フォレスター

この記事は 「Forbes JAPAN No.093 2022年月5号(2022/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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