第三に、産業界でも新しい動きが始まっていること。経産省が旗振り役となり、企業間で二酸化炭素(CO2)排出量を取引できる仕組みの創設を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」のキックオフが6月10日に行われた。賛同企業は440社、そのうち37社が金融・保険各社だ。
参加企業は自社のCO2排出量を早急に見える化し、取引可能にすることを目指している。さもなければESGスコア上、死活問題になるからだ。当然、前回の記事で述べたように企業活動を「見える化」し、社外と「データ連携」できるようにするためにはDX推進によって改ざんできない透明性を持たせ、リアルタイムに企業活動データの収集・記録ができなくてはならない。
このGXリーグは今は上場企業を中心にした動きだが、実は地方にもこの動きを歓迎している企業が少なからずある。ある会社では地方の未上場企業でありながら、自社のCO2排出量のモニタリングシステムを独自に開発。排出権取引に向けて準備を整え、システムの販売も目論んでいる。
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冒頭で紹介した経営者は「DXはやらないといけないが、ESGはちょっと……」であったが、DXを活用してESG経営を新たな収益の柱にしようとしている企業も現れてきたというわけだ。
GXリーグが進めば、当然ながらスコープ1と呼ばれる自社の見える化だけでなく、スコープ2の他社も含めた連結での取り組みが求められる。もちろんサプライチェーンに組み込まれている企業は、その会社規模を問わず「見える化」と「データ連携」が必須だ。
さらに排出権取引もできてサプライチェーン全体でCO2削減に貢献できる企業ならばなおのこと良い。この流れは数年以内に日本全国の企業に一気に拡がり、取り残されることは企業継続に大きなリスクをもたらすと思われる。
求められる、二兎追う経営姿勢
昨今のマクロ経済はあまりに変数が多い。コロナ禍とロシアウクライナ問題だけでなく、世界的に金融緩和政策からインフレ対策としての金融引き締めという、いわゆるリスクオフ(リスク回避)の状況でもある。
日本は天然のエネルギー資源に乏しく、円安が進めばさらなるコスト増となり利益を圧縮するだろう。金融アナリストも8割が「遅くとも2023年後半までに世界的な景気後退(リセッション)入りする危険性が高い」と予測している。
半年後、来年と経営が苦しくなってからESG対応やDX投資をやろうとしても、ESGスコア向上への取り組みが遅い企業は金融面からも引き締めがくる。「短期的な利益確保」か「中長期的なESG経営対応」のどちらか一方ではなく、あえて二兎を追う厳しい経営姿勢が今、求められている。
吉川剛史(よしかわ・たけふみ)◎早稲田大学法学部卒。日本電信電話から分社後、NTTコミュニケーションズ経営企画部、グローバル事業本部で海外新規事業開発と海外企業の買収・提携事業のプロジェクトディレクターとして勤務。その後、日本オラクルにて執行役員 経営企画室長(ミラクルリナックス社 社外取締役兼務)、ユニクロの海外事業開発部長、COACH A (U.S.A) Inc. CEO、明豊ファシリティワークス 専務取締役 経営企画室長などを経て、Y’s Resonance 代表取締役社長に就任。INDUSTRIAL-X設立時よりアドバイザーを務める。