「褒め方」にも方法がある
岡本はここで、「今度は今私が話した要素を考えながら、隣の人とインタビューをし合い、他己紹介を作ってあげてください」と指示した。
お互いの情報を聞き取りながら、相手の強み、特徴を探り出す。
その後、さらに岡本は、「では、みんなの前で、相手の『他己紹介』を披露してください。『強み』を強調しながら、その人の商品力をプレゼンするつもりで、『見出し』『キャッチフレーズ』も交えてアピールしてみましょう」と指示した。
20人のプレゼンが終わったあと、岡本は以下のように話し始めた。
「みなさん、さまざまに工夫して、相手の強みを掘り起こしていましたね。自分や他人の強みを見つけ出す方程式があります。以下の4つの1(ワン)を見つけ出すのです。
1.『オンリーワン』:その人だけが持つ価値。「君なしでは、このプロジェクトは成功しない。頼りにしているよ」
2.『ナンバーワン』:その人が誰よりも優れている価値。「あなたが最高、あなたの◯◯◯は世界1」
3.『チェンジワン』:その人が大きく変わった(成長した)点。「最近、やる気がでてきているね」、「近頃目の色が違うね」
4.『ベネフィットワン』:その人が他の人に与えるメリット、ベネフィット。「あなたのおかげで本当に助かっている」
という具合です。とはいえ、謙虚な日本人は自分をほめる自己紹介には抵抗がある人はすくなくないですよね。その時には、『伝聞』『引用』『目標』を活用してみましょう。
たとえば、『◯◯界のパイオニア』と言われたこともあります、『◯◯界のレジェンド』を目指しています、という具合ですね」
情報には「具体」をかならず抱き合わせる──「伏線回収」も
「気を付けたいのが、日本人が大好きな『いろいろな』『さまざまな』という言葉です」
実はこれらの言葉は、聞き手の脳内になんらイメージを結びません。1つでも2つでもいいので、具体的な例、エピソード、あるいはたとえ話を引用しましょう。
もっといえば、たとえ話、メタファーについても注意すべきことがあります。たとえば『笑顔で世の中を変えるエバンジェリストです』だけでは立体的にイメージが沸かない。ポエティックになってしまいます。『バズる法則を極めたSNSマーケティングの専門家』などのように、分野や職責が入るとより具体的になります。
『伏線回収』も大事で、冒頭に言ったことを締めで繰り返して『おっ』と印象づけるのも、話方のテクニックのひとつです。
たとえば、アップル社がMacBook Airを発表した『マックワールド2008』でスティーブ・ジョブズが演じた、こんな例があります。
当日、まず舞台に登場し、ジョブズはこう言いました。
“There’s clearly something in the Air today.(明らかに今日は何かが起こりそうな予感がします)”
『空気』という意味の”air”には、『雰囲気』『様子』といった意味もありますよね。
そして、プレゼンを始めて50分程度が経過したところで、ジョブズはもう一度言ったのです。
“There’s something in the Air.”
スライドにも同じ文字が映されています。
“What is it?(それは何か?)”
──そこで始まったのが、新製品『MacBook Air』の紹介でした。実に、冒頭の”Air”は、MacBook Airの“Air”と掛け言葉になっていたのです。そして、『世界で最も薄いノートパソコン』のプレゼンが始まり、封筒からジョブズが取り出したのが、薄っぺらい『MacBook Air』の現物でした。
どうでしょう。見事に冒頭の『伏線』が回収されているではありませんか。できればこのように、パワーポイントのスライドや、小道具などを使いながら、ストーリーとして、完璧に『回収』できればベターですね」
『世界最高の雑談力』(東洋経済新報社刊)
岡本純子◎グローコム代表取締役社長、米MIT比較メディア学元客員研究員。読売新聞社経済部記者時代、孫正義ソフトバンク社長など世界の経済人、政治家を多数取材する。その後NYでコミュニケーション術を学び、帰国後は1000人を超えるエグゼクティブに話し方をコーチング、「伝説の家庭教師」の異名をとる。11刷、累計15万部のベストセラーとなった著書『世界最高の話し方』の続編、『世界最高の雑談力』(東洋経済新報社刊)を6月に上梓。