「圧迫自己紹介」で体得、自己紹介の方程式
ここで、岡本氏は20人の受講生に30秒の時間を与え、自己紹介をさせた。まったく面識のない19人に向けて30秒で自分を語らせる。まさに圧迫面接ならぬ、「圧迫自己紹介」である。
それぞれの椅子から立ち上がって自分の説明を始めた20人の受講生たちの属性は、企業内弁護士から、東京の山谷地区で在宅診療に取り組む医師、元公認会計士のスタートアップCEO、独自の高速コロナワクチン接種スタイルを生み出し、話題になった医師、製薬会社のロビイスト、故郷にUターンして地域活性化に取り組む起業家、会社社長、公務員など実に多様だった。
岡本氏は、20人の自己紹介を聞いたあと、こう言った。
「自己紹介の方程式にはさまざまありますが、とりわけ、『自分見出し』を作ることが大切。自分を説明する、ありきたりでない言葉を3つくらい用意しておくといいでしょう。私、岡本純子でいうなら、『世界最高の話し方を教える伝説の家庭教師』などですね。
さしづめ私たちは皆、『株式会社私』『株式会社俺』、です。自分の人生を自分で経営していくこと、つまり自分を商品にしてどう売って行くかが非常に重要です。自分の商品力をどう上げていくか、あるいはブランディングをどうしていくかを、『話し方』を通して学んでいきましょう」
相手の「カギ穴」を見つける
「コミュニケーションは、受け手の言葉を使わなければ成立しない。ソクラテスも『大工と話す時は、大工の言葉を使え』と言いました。
コミュニケーションには3つの段階があります。それは『伝える → 伝わる → つながる」です。
定義するなら、
伝える=ボールを一方的に投げるだけ、伝わる=ボールを受け取ってくれること、つながる=ボールを投げ返してくれること、となります。『つながる』の段階で初めて『共感』が生まれます。
実は、真実は退屈なもの。うそや誹謗ほど刺さりやすいんです。それだけに、『真実』が伝わるようにするためには、一層の工夫をしなければなりません。
その工夫、すなわち『伝わるボールの投げ方』にはコツがあります。
まず、話者としての『自分視点』を手放すこと。
人は自分の聞きたいことしか聞きません。『自分が聞きたいと思っていたこと』と『相手の話』が重なったところだけを聞く。それは、誰しも、自分がすでに持っている仮説を肯定する上で役立つ情報を集める傾向があるからです。
これを『確証バイアス』と言います。
ですから、まずは相手の『聞く耳』をこじ開けるきっかけ、すなわち相手のカギ穴を見つけることが大事。
そして、コミュニケーションは『豪速球でなくキャッチボール』です。相手が受け止められる球を投げることが大事です。
また、相手に『自分で』気づかせる、あるいはあたかも『自分で気づいた』かのような錯覚を起こさせる。そうすれば、聞き手には能動的な態度が生まれ、話者が投げたボールを受け取ってくれる。投げ返してさえくれるようになります。
話し手との共通項を探すことも重要ですね。逆にいえば、共通項を発見できたら、もう勝ったも同然、しめたものです」
「盛り」も大切
「ちなみに、伝えるためには少し大げさに、そして感情を込めて話す、『盛り』も大切です。
明治大学教授の齋藤孝さんの言葉に『ミッション・パッション・ハイテンション』というものがありますが、まさに、伝えることに対する使命感、聞き手にパワーを感じさせるパッション力、身振りや振る舞いで高いテンションを聞き手に伝播すること、この3つは、話す際に重要な要素になってきます。
聞き手に関係あること、たとえば役に立つこと、聞き手が関心をもつこと、たとえば最近の流行について、などを伝えましょう。
あともうひとつ。聞き手の価値を承認し、共感し、褒めて、あるいは感謝しましょう」