ビジネス

2022.07.06

周回遅れの日本のデジタル通貨 一気に世界トップにする良策とは

円建てデジタル通貨「DCJPY」が世界で勝つために/Illustration by Booblgum

日本は今、デジタル通貨の黎明期にある。背景に、円やドルなどの法定通貨と結びついた決済手段として、法人・個人を問わず利用できるデジタル通貨への期待の世界的な高まりがある。

しかし、デジタル通貨は本当に実現し普及しうるのだろうか。海外では中央銀行がデジタル通貨の発行を行っている国もあり、民間企業での研究も進行中だ。一方日本の現在地は、法制度を含めた環境整備や一般消費者の認知拡大が急務の状況だ。

デジタル後進国と表現されることも多い日本が、経済と社会の基盤である金融インフラの変革を成し遂げ、デジタル通貨の開発で世界をリードすることは可能なのだろうか。もっとシンプルに言って、デジタル通貨は私たちのビジネスや生活に直結する「お金の未来」をどのように変容させるのだろうか。

現在、日本では独自の円建てデジタル通貨「DCJPY(仮称)」のプロジェクトが進んでいる。今回、DCJPYの実用性を検討する業界横断の組織「デジタル通貨フォーラム」事務局を務めるディーカレットDCPを訪問し、専務執行役員 兼 CPO プロダクト開発部門ヘッドの時田 一広氏にお話を伺った。前後編に分けてお届けする。

デジタル通貨の分野で日本が欧米に追いつく方法


アクセンチュア 武藤惣一郎(以下、武藤):私たちの生活において、デジタル決済はもはや日常的な支払い手段となりました。暗号資産も社会的認知度を高めており、NFTやメタバースに関するニュースも毎日のように目にします。

一方、デジタル通貨(Digital Currency:DC)に目を向けると、世界各国で「中央銀行デジタル通貨」(Central Bank Digital Currency:CBDC)が研究されているものの、本格普及にはまだ時間が必要です。デジタル通貨の普及におけるポイントはどこにあるのでしょうか。特に日本はデジタル変革=DXにおいても他の先進国に遅れをとっています。

ディーカレットDCP 時田 一広氏(以下、時田):率直に言うと、デジタル通貨において、日本はアメリカと比べて「周回遅れ」と言えます。しかし諦めるにはまだ早く、一気に世界トップに立てるチャンスがまだあります。

時田氏の写真
ディーカレットDCP 時田一広

本題の前に、デジタル通貨の背景のおさらいをします。直近の30年間でインターネットは重要な社会インフラとなり、「デジタル社会」は現代を表す言葉となりました。一方、金融領域はどうでしょうか。金融領域におけるインフラ機能はデジタル社会に対して乖離していて、ギャップは拡大しています。例えば、個人消費者はクレジットカードを決済手段として日常的に利用していますが、後日、銀行口座から引き落としがされるため、これは即時決済とは言えません。とくに高額取引をする法人にとっては、即時決済する手段は無いに等しい状態です。

デジタル化における社会と金融領域の間のギャップが広がるなか、2009年に暗号資産であるビットコイン(Bitcoin)が登場しました。革新的だったのは、ブロックチェーンを活用してインターネット上で価値の保存と交換が可能だと証明したことでした。これはインターネットの発明に匹敵します。

2017年にビットコインは最初のバブル期を迎えますが翌年、大手取引所が不正アクセスを受けて顧客資産の大規模流出事故を起こしたことで、日本は一気に規制を厳格化しました。その結果、新規事業者の登録が難しくなり、自由な発想をサービスへ展開していくスピードやイノベーションを創出する土壌が一気にしぼんでしまったのです。

現金とは流通するものです。同様に、暗号資産もインターネット上で流通します。デジタル通貨を暗号資産の一種と定義しているアメリカでは、価値を安定させるために特定の資産の価値を裏付けに持つ暗号資産である「ステーブルコイン」が複数登場しています。例えば、USD Coin (USDC)やUSDTなどは取引が活発に行われています。
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文=武藤 惣一郎(アクセンチュア)

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